マラウイで3年間実施してきたバオバブ事業が完了しました!

2017年2月から約3年間にわたって実施してきた事業「バオバブ製品の製造販売を通した農民グループの自立支援プロジェクト」の完了に伴い、11月27日、東京都内で事業完了報告会を開催しました。報告会では、現地事業責任者を務めたSPJ職員の青木より、プロジェクトの案件形成が行われた背景や現地における課題、活動内容とその成果などを報告しました。当日は約20人にご参加頂き、報告会完了後には、希望者による懇親会が開催されました。

今回は、当報告会での報告内容の概要をお伝えします。

【事業期間】2017年2月~2019年12月

【事業予算】約4千950万円

【プロジェクトの背景・目的】

 マラウイでは、産業貿易観光省主導のもと、2003年よりJICAの協力を受けてOVOP(One Village One Product:一村一品)プロジェクトが開始され、JICAもそれ以降13年間支援してきた。OVOPのプロジェクト事務局(現在は産業省庁の内部編成によりDepartment of SMEs(Small and Medium Enterprises)内のValue Addition Divisionとなっている)は、マラウイ国内に散在している111のOVOP加盟グループに対して、事業や組織運営の改善のための指導を包括的に実施している。しかし、グループ設立や工場設置などの初期支援、共通的な組織運営に対しての研修指導は行っているが、各商品の市場需要に即した製造販売の提案など、個々のグループに対してきめ細やかな支援は不十分となっていた。また、主として生産に主眼が置かれているため、販売先などの市場が確立できず、継続的な収益が確保できないなどの課題があった。

その様な環境下、このOVOP産物品の一つであるバオバブオイルは、優秀な美容オイルとして欧米を中心に注目され、近年その市場価値が高まっており、バオバブパウダーも様々な栄養素を含む食材、スーパーフードとして注目されている。そこで、当プロジェクトでは、バオバブ関連商品の製造販売をモデルとして、市場のニーズを捉えた適切な商品の販売方法、広報などを含めた販路開拓について助言し、市場に重点をおいたビジネス展開の重要性を示すと共に、OVOPプロジェクト全体の発展を促すことを目的とした。

また、OVOPプロジェクトでは、加盟する農村地域の農民グループが製造から販売流通までその全てを担うことを目指して研修を行っているが、実際に農村部の農民が都市部での店舗に対して販売交渉を行うことや、スーパーマーケットなどの大型店舗が求める品質(商品の安全や衛生管理、包装基準など)に対応することは極めて困難であり、ビジネスとしては現実的ではなかった。

 当プロジェクトでは、バオバブ商品の販売先を市場ニーズのある都市部に絞り、都市部において商品の製造販売を担当する組合と、村落部において原材料の供給を担当する組合とに分け、それぞれの環境、組織運営能力に応じて継続可能な事業の形を作った。その後、それらを繋げるネットワークを構築することで、OVOPプロジェクトによって形成された基盤を活用しながら、バオバブビジネスを1つのモデルとしてバリューチェーンを作り上げることを目指した。

【プロジェクト対象者】

直接的な裨益者:総数1,373名

①Maluso Cooperative Union 1,021名(Mitundu, Lilongwe県:商品製造販売担当)

②Home Oils Cooperative 25名(Ndirande, Blantyre県:商品製造販売担当)

③Wokha Cooperative 32名(Monkey Bay, Mangochi県:原材料供給担当)

④Zokoma Cooperative 41名(Chanluto, Mangochi県:原材料供給担当)

⑤Madisi Cooperative 254名(Madisi, Dowa県:原材料供給担当)

間接的な裨益者:総数18,082名

①直接的な裨益者の同一生計家族(一世帯あたりの人数は平均値を採用し7名で計算) 8,238名

②マンゴチ県内の直接裨益者以外でバオバブの実や種を供給する農民(300名)とその同一生計家族 2,100名

③マラウイのOVOPプロジェクトに加盟する組合に所属するメンバー総数 7,744名(直接的な裨益者数にカウントされている人数を除く)

【事業内容】

1年次
組合運営能力の強化 各組合に対して、年間事業計画の作成、帳簿管理、原価計算、5S改善、SWOT分析などについての研修を実施。
バオバブ商品製造に向けた環境整備 Malusoへの工場建設、及び搾油機の設置。各組合へのバオバブオイル、またはパウダーの製造資材の供与。製造研修の実施。
バオバブ商品の市場調査 Lilongwe市とBlantyre市での市場調査。International Trade FairやNational Agriculture Fairなど事業関連イベントの視察。
組合活動のフォロー 年間事業計画の作成、定期的な組合活動のモニタリングと指導。
その他 Malusoへの工場、及び搾油機の引き渡し式の実施。日本の国会議員マラウイ視察、及びJICA教師海外研修のODA活動現場視察の受け入れ。
帳簿管理研修でのグループワークの様子。基本的に研修では可能な限り参加型ワークを導入して実施。
当プロジェクトによって供与した搾油機でバオバブオイルを製造する組合員。
National Agriculture Fair(産業貿易観光省ブース)にて、来場者にバオバブオイルの説明を行う組合員。
保管庫&搾油機引き渡し式@Maluso Unionでの集合写真。写真後方部に見える建物がSPJ供与の工場。
2年次
バオバブ商品の製造技術改善 衛生管理、及びMBS(マラウイ商品安全基準、日本で言うJISである)研修、搾油機メンテナンス実習の実施。MBSに沿った製造マニュアルの作成。LOT管理システムと出荷前の官能チェック(人の五感を使った品質検査)の導入。日本でのバオバブオイル・パウダーの成分検査、及び細菌検査。
バオバブ商品の品質向上 バオバブオイルの効果を測るテストモニタリングの実施。消費者、関連業者へのスキン(ヘア)ケアに対する実態調査、及びマーケティング調査。商品パッケージ・ラベルの変更。新商品開発。
原材料供給担当組合と商品製造販売担当組合のバリューチェーン構築 原材料供給担当組合、及び周辺の近隣住民より、バオバブパウダー約1t、バオバブの種(オイルの原材料)約5.6tを商品製造販売担当組合に販売。
バオバブ商品の市場開拓 専門家を招聘してのプロモーション実習(Lilongwe市、Blantyre市にて延べ430店舗への営業活動)。都市部ショッピングセンターでの商品PRブース出展。International Trade Fairへの参加。
組合活動のフォロー 年間事業計画の作成、定期的な組合活動のモニタリングと指導。
その他 農業省、コミュニティ省の県事務所との事業連携協議。マラウイ大統領夫人へのバオバブ商品サンプル贈呈。TAや村長ら地域有力者を招待しての組合活動成果報告会の実施。
Blantyre市内ショッピングセンターでの消費者実態調査。買い物客に普段使用しているスキンケア用品の種類と金額などを聞き取っている。
Mangochi県の原材料供給担当組合でのバオバブ種の買い付けの様子。
Lilongwe市内でのプロモーション実習。市内の薬局に対してバオバブパウダーの営業を行う組合員と専門家。
原材料供給担当組合にて、TAや村長らを招いての組合活動成果報告会を実施。ゲスト、参加者に挨拶をするSPJ現地事業責任者。
3年次
バオバブ商品の品質向上 原材料調達から出荷までの作業工程のロット管理。MBSの取得支援。衛生管理フォローアップ研修の実施。新商品開発。
バオバブ商品の市場開拓 Flagship店舗の獲得に向けたプロモーション活動。市内ショッピングセンターでの商品PRブース出展。International Trade FairとNational Agriculture Fairへの参加。
組合活動のフォロー 四半期毎のBusiness Review Meetingの実施。
衛生管理フォローアップ研修。MBS基準の衛生管理を順守してバオバブジャムのパッキングを行う組合員。
リロングウェ市内で獲得したFlagship店舗(カフェ)。新たにバオバブオリジナルドリンクがメニューに加わった。
Lilongwe市内ショッピングセンターでのバオバブ商品PRブース出店。
Business Review Meetingの様子。四半期の売上と製造量を確認し、年間事業目標を達成するために何が必要かを協議している。

【3年間を通しての事業成果】

  • バオバブ商品の製造に対する衛生管理と商品品質の向上

 原材料供給担当組合、及び製造販売担当組合においてMBS(マラウイ商品安全基準)を基準とした製造、衛生管理がなされる様になった。これまで3年間の事業で2回実施した日本での成分検査及び細菌検査の結果では、2回目は1回目と比較してその数値が改善され、原材料供給担当組合(2組合分)が製造したバオバブパウダーは日本の食品衛生法における生菌数の厳しい基準(3000/g以下)をクリアした。また、製造販売担当組合が製造したバオバブオイル(2組合分)についても、日本の化粧品基準に沿って、ホルムアルデヒドなどの禁止成分が含まれておらず、生菌数が基準値(1×103 CFU/g)以下であることが確認された。

 バオバブオイルのMBS取得については、Home Oils CooperativeとMaluso Unionがプレ認証を取得し、現在、本認証の審査中である。本認証の審査には、今後さらに1年から2年が必要となる。

  • マラウイ国内におけるバオバブ市場の拡大

これまでの延べ400件以上のバオバブ商品の営業活動、Flagship店舗獲得に向けたプロモーションなどの活動によって、マラウイ国内におけるバオバブ商品の販売市場は大きく拡大した。とりわけバオバブパウダーにおいては、その売上市場は3年前と比べて5倍以上へと成長し、具体的な数値として、これまでに以下の新規販売店舗を獲得した。

【Lilongwe市内】24件

ショップ:7件、美容室:1件、薬局:3件、スパ:2件、カフェ:4件、お土産屋【ギャラリー】:5件、スポーツジム:1件、外国企業:1件

【Blantyre市内】16件

ショップ:3件、美容室:3件、理髪店:1件、薬局:5件、スパ:2件、カフェ:1件、現地NGO:1件(栄養改善プロジェクトで使用)

③支援組合の事業収益の増加

支援組合(5組合)におけるバオバブ商品販売の売上合計は、事業開始時から2年半で約116万円から約268万円へと増加した。また、元々各組合がそれぞれ製造販売していた既存商品(コメやハチミツなど)についても新たに市場を開拓し、この2年半におけるバオバブ商品やその他の既存商品を含む支援組合の売上合計は、約750万円から約1,765万円へと増加した。

  • バオバブ事業、及び組合活動を通しての農民(組合員)の生活環境の向上

事業完了時に実施した事業成果調査において、調査対象となった325名中234名(72%)が組合活動によって得た収益を個人事業(販売用野菜-米を含む-の栽培、販売用家畜の飼育、パン類などの製造販売、キヨスクの運営など)に投資しており、また325名中301 名(93%)が組合活動、またはその収益を活用しての自己投資事業によって、自身及び家族の生活が向上したと回答した。収益の活用方法(個人事業への投資を除く)について、多く出た回答は以下の通りであった。

・子供の学費の支払いや学校へ通うために必要な備品の購入に際して、親族などから借用せずに対応できる様になった。

・自転車やマットレス、携帯電話、ラジオなど生活用品を購入した。

・食事に肉や魚を出す回数が増えた。

・家の修繕をした(藁葺からトタン屋根への張替え、ドアの設置、室内のセメント塗りなど)。

・食用や資産としての家畜(鳥、ヤギ、豚など)の飼育。

【今後の課題・展望】

MBSの取得については、本プロジェクト実施期間内に本認証の取得は完了できなかったが、既に主管省庁である産業貿易観光省の担当部署に引き継ぎ済みである。また、この3年間でバオバブ事業をある程度軌道に乗せることに成功したため、現時点ではプロジェクト終了後も自立した組合活動が展開され、当プロジェクトによって構築されたネットワークが維持されることが期待できる。国連のグローバルコンパクトに加入しているニューヨークの化粧品会社が、彼らのバオバブオイルを使ったシャンプー・コンディショナーを製造するようにもなっている。今後の懸念事項を挙げるとすれば、衛生管理がきちんと彼らだけで順守されるかどうか、原材料供給組合に替わる競合他社の出現によってネットワークが崩れる可能性、及び同組合のモチベーションや活動の低下、バオバブ商品市場への大手企業の参入による影響などが特に考えられる。事業終了後も各組合活動の経過観察を定期的行う予定であるが、今後、組合が自立した活動を展開できていることが確認された場合、さらに当事業を発展させた継続案件、もしくは別商品(別基盤)を用いての類似案件の形成が検討できる。(了)

約3年間に亘り、日本、またマラウイで事業に関わって下さった関係者の皆様、ご支援いただいた皆様のお力によって、今回の事業を無事に完了することができました。SPJはこれからも途上国での開発支援を続け、SDGsの達成に向けた活動を展開していきます。

今後とも、ご支援をよろしくお願い致します。

作成日:2019年12月20日