『ビッグイッシュー日本版』にインタビューが掲載されました!

『ビッグイッシュー日本版』100号記念号(8月1日発行)の「連載 チャリティ・プラットフォーム インタビュー⑮」で、NPO法人チャリティ・プラットフォーム理事長の佐藤大吾氏(写真)からインタビューを受けました。
MrDaigoSatoWeb.jpg
ビッグイッシュー100号
(上記をクリックすると記事ページを見ることができます)
連載 チャリティ・プラットフォーム インタビュー
アフリカン・ミレニアム・ビレッジへの直接投資でアフリカの貧困と闘う

NPO法人ミレニアム・プロミス・ジャパン理事長
鈴木 りえこ さん
チャリティ文化の創造
国連ミレニアム開発目標の達成を目指し、収入が1日1ドル未満という極度の貧困解消のため、アフリカの村に直接支援を続ける米国のNPO「ミレニアム・プロミス」。ミレニアム・プロミスのパートナーであるミレニアム・プロミス・ジャパンを立ち上げた鈴木りえこさんに、NPO法人チャリティ・プラットフォームの佐藤大吾がインタビューした。豊富な国際経験から見えてきた、末端まで届く確かな支援のあり方とは?


中間搾取されることなく必要な人に届く直接支援を
佐藤 はじめに、アフリカに関心をもたれたきっかけを教えてください。
鈴木 もともと私は電通総研に勤めていたのですが、2004年、東京大学法学部で政治を教えていた夫の北岡伸一が、ニューヨークの国連日本政府代表部・次席大使に任命されました。夫は私に定年まで勤め上げてほしいと願っていたのですが、こんなときしか新しい一歩は踏み出せないと決心して退職しました。
佐藤 北岡先生の気持ちを振り切って。(笑)
鈴木 ええ。でもイギリスの大学院で国連について勉強したこともあり、こんなチャンスがなければできないことを見つけたい。そう考えていた05年1月、夫と親しくしているコロンビア大学のジェフリー・サックス教授から夫に電話がありました。彼は国連アナン事務総長の特別顧問で、世界の貧困撲滅に向けた「ミレニアム開発目標」の監修者でもありました。そんな彼が、目標達成の壁となっているのはアフリカのサブサハラの貧困で、エイズとマラリアが特に大きな問題だというのです。エイズ問題を解決するのは複雑だけど、マラリアは蚊帳でかなりの部分防ぐことができる。蚊帳は日本の某メーカーのものが高品質ですが供給が足りない。それを聞いて、私の使命はこれだと直感しました。
佐藤 実際にアフリカへ足を運ばれたのは、その直後ですよね。
鈴木 その年の3月です。セネガルのスーパースターでユニセフ親善大使でもあるユッスー・ンドールさんが、アフリカ中の26組のスターを集めて母国でマラリア抑止のコンサートを開いたんです。そこへサックス教授夫妻も行かれると聞き、駆けつけました。コンサートの後にはユッスー・ンドールさんらとともにユニセフの車で地方の村へ移動し、蚊帳の贈呈式を見せてもらいました。
佐藤 米国で、NPOミレニアム・プロミスが立ち上がったのは?
鈴木 コンサートの翌月です。サックス教授と、米国の有名な慈善事業家レイモンド・シェンバーさんが中心となって創設しました。その翌年1月、サックス教授夫妻のアフリカ視察に、私も合流したんです。たまたま裕福な社会貢献家を含め30名ほどが参加したツアーで、中には自家用ジェット機でいらした方もいました。そんな中、サックス夫人にミレニアム・プロミスの日本版をつくりたいと打ち明けると、「ファンタスティックね」と賛成してくださった。
佐藤 なるほど。ミレニアム・プロミスの一番ユニークな点は、何といっても直接支援ですよね。従来の国と国とのやり取りでは、せっかくの寄付金が中間搾取されて肝心の村に届かないといった話をよく聞きますが、実態はどうなのでしょう?
鈴木 実際、そのようですよ。アフリカに長年滞在した専門家によれば、中間搾取されたお金はスイスの銀行に行くとか別荘になることが多いそうです。そういう意味でも、アフリカ10ヵ国にモデルとなる80もの「ミレニアム・ビレッジ」をつくり、農業・教育支援や蚊帳の供給、井戸、給食の配給などを行っているミレニアム・プロミスの活動は、人々に確実に届く方法だといえます。
佐藤 本来なら自分の懐に入るお金がもらえないとなると、その国の大臣や役人は怒ったり、妨害したりしないのですか?
鈴木 サックス教授が大統領らと直接話をしているので、その点は心配ありません。1日1ドル未満で暮らしている人たちは生きることに精いっぱいで、次のステップに上がっていけない。発展の第1段階のステップに乗れるよう手助けしなければならないんです。実はこの「ミレニアム・ビレッジ」プロジェクトは初め、2ヵ国2村で始まったのですが、日本政府がサックス教授と夫の要請に応じてくださったおかげで10ヵ国にまで増やすことができました。
佐藤 つまり、日本の援助によって、対象となる国が8ヵ国増えたということですか?鈴木 そうなんです。日本政府が5年にわたって20億円の支援をすると約束してくれたことで、資金のめどがつきました。サックス教授も日本政府のこの英断を高く評価していて、世界中の講演先で日本のことを褒めて下さっています。原価500円の蚊帳で5年間安心して眠れる佐藤 「ミレニアム・ビレッジ」への支援は永続的なものではなく、5年という期限つきだそうですね。
鈴木 ええ。5年の間に、自分たちの足で立ち上がれるようにしていただく。ここが、自助努力を求める日本人の考え方にも合っているところです。日本政府からの援助も5年で打ち切られてしまうので、援助を今後も続けていくには、アフリカとの草の根的な関係を築いていく必要があります。それには不足している蚊帳の供給が有効だと考えています。ミレニアム・ビレッジ中に蚊帳は普及しましたが、アフリカ中ではまだまだ足りません。原価500円の蚊帳が1帳あれば、1人の子どもが5年間安心して眠れるんです。
佐藤 500円なら、若い方でも寄付できる額ですよね。
鈴木 コーヒー1杯我慢すれば、払えない額ではないと思います。私が勤めていた電通総研では、「世界価値観調査」という意識調査を5年ごとに実施していました。その結果を見ても日本の若者が自分に価値を見出せず、未来に希望をもてずにいることは明らかでした。何もないアフリカで懸命に生きている人々の存在を知り、自分にもできることがあるとわかれば希望もわいてくるはずです。
佐藤 アフリカの方々を日本にお招きするというアイディアもあるそうですね。
鈴木 そうなんです。日本のすばらしさを実際に体験して、ぜひ母国に伝えてほしい。夫が国連次席大使を務めた経験から、192ヵ国のうち3分の2の賛同を得て日本が安保理常任理事国入りを果たすには、アフリカの53票がどうしても必要だと痛感しました。政治的だとの批判もあるかもしれませんが、やはりアフリカの方々から理解を得るには、こうした草の根的なつながりが欠かせないんだと思います。
佐藤 今のところ、資金は企業からの寄付が中心ですか?
鈴木 そうですね。米国のように億単位のお金をポンと出す社会貢献家が日本にはなかなかいないので、いろいろな企業を回っては頭を下げています。厳しい環境ですが、会社勤めのころは、怒鳴られることも珍しくなかったので、こういう環境には慣れています。
佐藤 今後は、どんな支援を考えておられるんでしょう?
鈴木 今年の2月、タンザニアのムボラという村を視察してきました。この村には電気が通っておらず、学校のトイレも穴を掘っただけのもの。どのように処理しているのかさえわからない。こういった村に太陽光発電パネルなどを寄贈できたら、生活が大きく改善されると思います。インターネットへのアクセスも重要です。ソニーは、新品パソコンを大量に寄贈してくれました。 いずれは、ミレニアム・プロミス・ジャパンが全面的に支援する「ミレニアム・ビレッジ」を持ちたいですね。人的支援はプロジェクトのパートナーであるコロンビア大学地球研究所、UNDP(国連開発計画)から受けるとしても、資金は自分たちで調達したい。一村につき年間3000万円、5年で1億5000万円が目標です。
すずき・りえこ
北海道生まれ。日本女子大学文学部英米文学科卒業後、雑誌の編集記者を経て渡英し、国際関係論を学ぶ。1987年(株)電通総研に入社。92年に休職し、ロンドン・スクール・オブ・エコノミクス大学院にて国際関係論の修士号を取得。93年に復職するが2004年、国連日本政府代表部次席大使に任命された夫・北岡伸一に同行してニューヨークへ。アフリカを4度訪問し、6ヵ国を視察。2008年4月、NPO法人ミレニアム・プロミス・ジャパン設立。国連周辺の女性30人にインタビューするなど、現在、著書を執筆中。
NPO法人チャリティ・プラットフォーム
2007年5月設立。本部は東京都港区。「日本における寄付文化の創造」を目的に、NPOおよび社会起業家と、その支援者・協力者を、寄付を通じてつなぐプラットフォームとして活動する。理事長は佐藤大吾。http://www.charity-platform.com/