南スーダン難民への心理社会的ワークショップを始めました。

SDGs・プロミス・ジャパン(SPJ)では2019年11月27日から2020年3月7日まで、ウガンダ北部ユンベ県のビディビディ難民居住区にてジャパン・プラットフォーム(JPF)の助成の下、「ウガンダ北部における南スーダン難民への心理社会的支援強化事業」を実施しています。

こんにちは。現地駐在員の濱田と飯田です。

私たちは、昨年の12月にウガンダに着任し、首都カンパラにて事業開始の準備を行い、今年の1月から本格的に事業地のユンベ県で教員及びコミュニティリーダー向け心理社会的ワークショップ及び現地のローカルNGOであるTPO Ugandaと提携した難民コミュニティ向けメンタルヘルスセミナーを開始しました。

今回の記事は、教員及びコミュニティリーダー向け心理社会的ワークショップを中心に報告します。

ウガンダ北部のユンベ県にあるビディビディ難民居住区には、現在でも80万人以上もの南スーダン難民が生活しており、祖国の紛争から逃れてきた難民が現地で過酷な生活を強いられています。南スーダン難民の間では、紛争によるフラストレーションや失業、心的外傷後ストレス障害(PTSD)、アルコールの乱用などが深刻化しています。また、紛争で心理的な傷を負った児童が数多くいます。SPJでは過去の事業においてそんな児童の心のトラウマの問題を解決するためのワークショップを行ってきました。今回の事業ではSPJは児童の周囲を支える大人たちの心理社会的支援への理解と知識を深めるために、「ウガンダ北部における南スーダン難民への心理社会的支援強化事業」を開始しました。

1月から本格的に開始された教員向け心理社会的ワークショップには、教員20名が参加し合計で7回のワークショップが行われました。

教員向け心理社会的ワークショップでは、描画から粘土細工制作、針金の人生制作、そして過去の辛い体験及び未来への希望という2つのテーマで歌詞作成を行い、心理社会的ケアの段階を踏んでワークショップを実施しました。参加者(教員)が作った描画や粘土細工には、南スーダンの紛争で家族が殺されたり、家が破壊されたりといった辛い記憶が色濃く反映されていました。今でこそ、ウガンダで平穏な日々を送っている彼らですが、南スーダンでの辛い体験は、私たちの想像を絶するレベルのものです。参加者の描画や粘土細工、針金の人生制作などの作品を見るにつれ、大変な生活をされてきたのだと痛感しました。

音楽セッションでは、過去の辛い体験及び未来への希望という2つのテーマで歌詞を作成しました。さすがは学校の先生だけあって、合唱が大変上手で、楽しく歌っている様子は印象的でした。また音楽セッションには、日本からお越しいただいた心理社会的ケアの専門家である桑山紀彦医師にも参加して頂き、心理社会的ワークショップのファシリテーターとして参加している現地スタッフに指導して頂きました。最終回のワークショップには、国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)やTPO Ugandaなどのオブザーバーを招いて、これまでのワークショップの成果発表会を開催しました。成果発表会では、参加者が描画から粘土細工、針金の人生、そして過去の辛い体験及び未来への希望という2つのテーマで歌詞を順次発表しました。また成果発表会では、ワークショップに参加された教員から「自分の学校でも心理社会的ワークショップの手法を取り入れて、子供たちの心のケアを行いたい。しかし、そのためには学校(校長先生)や教育関係者の心理社会的ワークショップへの理解が不可欠なので、教員だけでなく、校長先生や教育関係者も集めて同様のワークショップを開催してはどうか」など、ワークショップ参加者と活発な議論ができました。

成果発表会が終わり、ワークショップに参加された先生方が自分の作品を持って帰りましたが、特に先生の間では針金の人生が好評のようでした。子供たちへのワークショップとして、針金の人生は取り組みやすいようです。

描画セッションの様子。 描いた描画についてグループで討論する参加者
粘土セッションの様子。 南スーダンの紛争での辛い経験を作品にする参加者
針金セッションの様子。 制作した針金の人生について、参加者が皆の前でそれぞれ発表した
音楽セッションの様子。 グループに分かれた参加者が協力して、
南スーダンでの体験に基づいた歌詞を制作した
UNHCR(中央)とTPO Uganda(左)のオブザーバーから参加者に
ワークショップの修了証書が手渡された

今回は教員だけではなく、各難民コミュニティの取りまとめ役となっているコミュニティリーダーへも心理社会的ワークショップを行っています。各コミュニティに所属する児童が抱える心理的問題にコミュニティの代表者である彼らが気づけるようにし、適切な対処が出来るようにするというのが目的となります。

コミュニティリーダー向け心理社会的ワークショップも、描画から粘土細工、ジオラマ制作、過去の辛い体験及び未来への希望という2つのテーマで歌詞作成と、徐々に段階を踏みながら、ワークショップを開催しています(合計で12回、ワークショップを開催予定)。参加されているコミュニティリーダーによると、コミュニティ内でもPTSDやトラウマなどの精神的なトラブルを抱えた難民が生活していて、彼らへの対応が課題になっているとのことです。実際にUNHCRからビディビディ難民居住区内で自殺者が最近増えているとの報告が出ており、自殺と難民の精神的な問題の関係性が疑われています。

また、コミュニティリーダーに対しても、桑山医師に心理社会的ケアの重要性や意義について講義して頂きました。講義後には、参加者のコミュニティリーダーの皆さんと桑山医師との間で、活発な意見交換の場があり、コミュニティリーダーの心理社会的ケアへの関心の高さが伺えました。コミュニティリーダーの中には、南スーダンの紛争で自分の住んでいた村が戦闘機で爆撃されて村人200人が死亡し、生き乗った村人3人のうちの1人が自分であると語ってくれた方がいました。また、自分一人、ウガンダに逃げてきたものの、兄弟姉妹は南スーダンに残ってしまい、紛争で家族が射殺されてしまった方もいました。こういった心の奥底にあるネガティブな感情も全て作品に投影されており、粘土細工や歌詞制作はリアリティを帯びたものになりました。

うれしいことに、コミュニティリーダーの中には「ぜひ、自分の村でも心理社会的ワークショップで学んだ手法を用いて、村人のトラウマやPTSDに向き合ってみたい」と仰ってくれた方もいました。まずは手始めに、自分の家族の心のケアにチャレンジするそうです。

なお、コミュニティリーダー向け心理社会的ワークショップの参加者は30名に上ることから、現在、2つのグループに分けて実施しています。2月中旬に、コミュニティリーダー向けの成果発表会を実施予定です。

ジオラマセッションの様子。
グループに分かれて参加者が「住みたい街」をテーマにジオラマを制作した
音楽セッションの様子。 グループに分かれた参加者が協力して、
南スーダンでの体験に基づいた歌詞を作った
音楽セッションの様子。 成果発表会に向けて、歌のリハーサルを行った
ワークショップ参加者との1枚。SPJ理事長鈴木もワークショップ終盤時期に視察を行った
作成日:2020年03月05日