去る、7月2日に行われました第8回MPJ研究会「NPOの広報活動について」のレポートが出来ましたので掲載いたします。
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~メディアリレーションズの手法を中心に~
【講師】永井昌代氏(株式会社プロペラ・コミュニケーションズ代表)
【日時・場所】2010年7月2日(金)18:30~20:30
日本財団ビル2F 第3会議室
【概要】
1.広報に関するNPO法人を取り巻く状況
2. パブリックリレーションズとは何か
3. メディアリレーションズとは
4. 企業、団体に必要なメディアリレーションズ
5. NPO法人に必要なメディアリレーションズ
6. パブリシティとは
7. パブリシティの手法について
8. 広報担当者の役割とメディアリレーションズの原則
9. 誤報発生時の対応
10. 日本のメディアの特徴と将来
11. ファンドレイジング、啓発へのコミュニケーションの参考に
12. 質疑応答
私の専門は行政の広報だが、私が行っていたコロンビア大学国際公共政策大学院は国連等の国際機関に就職を希望する人のためのプログラムだったので、ファンドレイジングや補助金の申し込みの仕方等が授業で行われていた。また、アメリカでは多くの友人がNGO、NPOに就職をしていく中で、私も国際協力やNPOに非常に興味を持っていた。実際に仕事では、これまでに幾つかNPO法人のクライアントがいた。しかしそうしたNPO法人は、財政基盤がそうとう豊かで、かつ、年数も非常に長くされているところが主である。一般的なNPO法人では、なかなか広報・PRに予算を割けないということで、私もボランティアでお願いをされることが多い。しかし、私自身もなかなか全ての事に協力をできるわけではない。一人でも多くの方がNPO法人のための広報について技術等を身につけていただければ、広がりができるのではないかと思う。
1.広報に関するNPO法人を取り巻く状況
■ 現状
日本はNPO・NGOの情報が、欧米の先進国と比較して極めて少ないのではないかと感じている。私自身、仕事でNPO法人の広報・PRで様々なメディアに働きかけをしても、なかなか載せる紙面がないということで、断りを受けることがほとんどである。
■ 原因
なぜメディアでの露出がこれだけ少ないのかということを私なりに考えてみたところ、とにかくNPOの側にリソース(資金、人材)が足りないということが原因として挙げられる。統計では、2009年に約4万のNPO法人があるといわれているが、10人以下規模のNPOが全体の63.1%である。年間の収入規模としては、200万から500万が12.6%ということで、組織、収入ともに非常に小規模なNPOが多いということだ。NPOの方たちは実際に手弁当で活動をされていて、ファンドレイジングがなかなか上手くいかなかったり、補助金を受ける機会がなかったり、企業からなかなか支援をいただけなかったりといった事情の中で、広報・PRに割くお金がないというのが実情である。受身で取材を受けるということが仮にあったとしても、主体的に情報を発信していくということの難しさを非常に感じているという話をよく伺う。また、人材についても、広報・PRは専門性が必要な部分もあるので、一人で何役もこなされているNPO法人の実状の中で、広報・PRだけに従事していくことや、その技術を磨くためのトレーニングを受ける機会も実際には少ない。以上のことから、NPO側が主体的に発信している情報量そのものも少ないということが、メディアでの露出不足につながっていると思う。
一方で記者クラブの存在というのが非常に大きいのではないかと私は感じている。日本の記者クラブは全て省庁に寄り添ってあるわけで、地方自治体においても同様である。また、経団連等の日本の柱になるような大きな組織にあわせて記者クラブが存在している。NGO・NPOはほとんどがノン・ガバメントであるため、リリースを書いてもどこに持っていけばよいのかわからないというのがよくある悩みである。逆に、NGO、NPOの活動に非常に興味、関心をお持ちの記者の方がいても、書く場所がないという話もある。極端に激しい紛争や、世界的に大きなアジェンダとなってはじめてそこで活躍しているNPO・NGOが露出したり、あるいは人質になる等の大きなリスクに遭遇することではじめて露出をしたりすることはあるが、本当に必要なことがなかなか露出していないのが現状である。これは、日常的にコンタクトできる記者やメディアの存在が少ないからであり、日本の制度に沿うとNPOのための記者クラブが存在しないということが大きなネックになっているのではないかと私自身は感じている。
■ 結果
その結果、本当に知らせるべき人に情報がいっておらず、欧米諸国に比べて、NPO・NGO、一般市民よりも、政府や企業中心の国になってしまっていると感じる。
■ 解決策
・パブリシティ
解決策として私自身がまず大事だと思うのは、パブリシティである。
・ソーシャルメディアの活用
今までメディア、大マスコミしか発信できなかった情報を、個人レベルで様々な形(ブログ、SNS、ツイッター等)で発信し、大きな広がりを持たせることができる時代になっている。NPOの皆さんは既にこれらの活用をされていると思うが、どのように知恵を出して活用していくかが大切である。
・企業との連携
企業のCSR、企業が社会において利益を拡大する以外に様々な役割を求められている中で、どう連携をしていくか。
・NPOのための記者クラブ
記者クラブ制度が障害になっているのであれば、NPOの人たちが自分たちの情報を発信してそれを受けてもらえる場を作る必要があるのではないか。
・広報担当者の人材育成
外務省や色々なところが、様々なプラットフォームを作ったり、養成講座を開催したりしている。あるいは広告代理店等で、自主的にボランティアでセミナーをしているところもある。しかし、今日のような形、あるいは現場の最前線でNPOの広報に取り組む人たちのためのスキルアップのための研修がもっと必要だと感じている。
2.パブリックリレーションズとは何か
広報というのは広く皆さんにお知らせをするということである。日本では広報という言葉は、第二次世界大戦後にアメリカが日本に、それまでの「由らしむべし、知らしむべからず」というように国民に大事なことは何も伝えない国家から、民主主義を進めていくためにPRO(パブリック・リレーションズ・オフィス)というものを作ったところから始まり、その時に訳されたのが広報という言い方である。その際、パブリックリレーションズという言葉をなかなか適切に訳せないという事情があって、広報・広聴という言い方をしたり、広報という言葉で一括りの言い方をしたりしてきた。私自身はPR会社をやっていて、アメリカでパブリックリレーションズ(PR)を勉強したので、ここから先、私の話す広報というのは、パブリックリレーションズと思っていただければと思う。
パブリックリレーションズについては様々な定義があり、説明をするのが非常に厄介である。私が考えるに、パブリックリレーションズというのは、政府、企業、自治体、団体などが多様なコミュニケーション活動を通じて、消費者、納税者、地域社会などとの相互信頼関係を築き、目的を達成する手段のことである。
日本は明治政府以降、非常に中央集権的な国家ということと、ほぼ単一民族といってもよいような民族性、あるいは単一言語といってもよいような言語という社会で長年やってきた。日本の場合は文化として、「言わぬが花」とか「あうんの呼吸」とか「言わずもがな」とか「目は口ほどに物を言う」等、黙っていることが美徳と言われていた。一方で、パブリックリレーションズというのは欧米、特にアメリカで非常に発達をしてきた。アメリカは広大な国土、多様な民族、多様な文化、多様な宗教等の多様性を背景にして国が発達しており、当然、企業あるいは組織団体もそうした中で様々なコミュニケーションをしていかなくてはいけない。その時に、自分のメッセージをはっきりと言葉にして相手に伝えることや、そのメッセージを伝えるためにはどういった方法が一番適切かということが非常に重要であり、パブリックリレーションズというものが発達してきたわけだ。こうした違いが、日本にとっては、色々な国際社会との軋轢を生んだり、PR下手と言われたりする所以ではないかと感じる部分もある。
一方で、これだけボーダーレス、グローバリゼーションと言われる世界の中で、また、日本の中でもジェネレーション・コンフリクトがあったり、昔以上に多様性が増している中では、これまでのやり方がなかなか通用せず、自分のメッセージを相手に対してどういう方法で伝えていくかということがますます重要になっていくということだ。
以上のことから、パブリックリレーションズについて知っていただくということは、もちろん皆さんが何らかの形で関わっていらっしゃるNPO法人のためにも重要だが、仕事においても、地域コミュニティにおいても、プライベートなボランティアの関わりにおいても、非常に重要であり、役に立つことではないかと思っている。
■ ステークホルダーとは?
ステークホルダーとは、従業員、消費者、株主・投資家、取引先、行政、NPO、NGO等々、企業となんらかの利害関係のある人々のことである。
たとえばNPO・NGOを中心に考えたとき、ステークホルダーは、それぞれ変わってくると思う。メディアもそうだろうし、職員ということもあるだろうし、ファンドを作るために何か商品を売っているような場合には顧客・消費者がいるようなNPOもあるだろう。よって、皆さんの組織の中で、どこがステークホルダーなのかというのをきちんと整理して特定していっていただければと思う。
ここで重要なのは、双方向のコミュニケーションということである。自分たちが伝えたいメッセージを一方的に伝えるのではなくて、利害関係のある人たちが何を求めているのかという声を聞いていくという、双方向のコミュニケーションがあってこそのステークホルダーである。
■ ステークホルダーとのコミュニケーション例
ステークホルダーとのコミュニケーション例としては、企業においては、マーケティング・コミュニケーションの場合は消費者・顧客・ユーザー・取引先、インベスターリレーションズ(IR)では株主や投資家等が挙げられる。
NPOにおいては、たとえば、自分たちの活動に非常に近しい官庁があるとガバメント・リレーションズのようなものもあるだろう。何か援助をしているようなNPO・NGOであれば、援助される側とのコミュニケーションもある。自分のNPO・NGOの組織の中で、どういうコミュニケーション、どういうリレーションズが必要なのかというのを整理していただければと思う。
3.メディアリレーションズとは
メディアリレーションズというのは、メディアの人たちとの関係構築である。直接的な相手は、メディアの記者や編集者であるが、実はその先にいる視聴者や読者等の人たちが、最終的にメッセージを届けたい人である。他のステークホルダーについては、ほぼダイレクトなコミュニケーションなのに対して、メディアというのは、メディアが媒体となってその先にいる人たちに対してコミュニケーションをするということである。NPOであれば、ファンドをくださる企業の人もメディアを見ている存在であるし、政府の人もメディアから情報を得ている。また、一般市民もメディアから情報を得ているし、協力し合うような人たちもメディアから情報を得ている。そういう関係がメディアリレーションズということになる。
4.企業、団体に必要なメディアリレーションズ
メディアリレーションズの中でも、更に三つに分類している。
■ コーポレート・コミュニケーション
企業の理念、存在意義、経営目的、活動実態等の説明責任を果たしていくような、企業のイメージを維持したり、向上させたり、企業そのものの認知を上げたりするためのコミュニケーションのことを、コーポレート・コミュニケーションという。
■ マーケティング・コミュニケーション
これはPR会社の中ではメインストリームの分野である。市場創造活動のためのプロモーション戦略が、マーケティング・コミュニケーションである。
■ リスク・コミュニケーション
危機発生時の対応のことである。
5.NPO法人に必要なメディアリレーションズ
次に、NPO法人に必要なメディアリレーションズは何かということを、私なりに考えてみた。
■ オーガニゼーション・コミュニケーション
コーポレート・コミュニケーションが企業に必要だとすれば、NPO・NGOにとっては、オーガニゼーション・コミュニケーションが必要となる。これは、NPOの理念、存在意義、活動目的、活動実態等について説明責任があるということである。
■ エンライトメント・コミュニケーション
エンライトメント・コミュニケーションというのは私が作った言葉なので、皆さんにイメージを持っていただければと思う。これは、活動の動機となっている世界、社会の現状を知ってもらうということである。欧米ではアウェアネス・ビルディングという言い方もする。
皆さんの活動の中で、ファンドを集めたり、色々な取組をされていたりしても、そもそも何のためにやっているのかという実態がほとんど知られていないという状態が圧倒的に多いのではないかと思う。だから、たとえばミレニアム・プロミス・ジャパンであれば、今、アフリカの各国でどういうことが起きているのかということを知ってもらうことが、コミュニケーションとして必要ではないかと思う。
これは企業・団体に必要なメディアリレーションズには該当しない部分であると思うが、マスメディアが持っている機能(問題を記事、番組にして広く世の中の人に問題提起をするという機能)には非常にマッチする部分なので、まさにメディアリレーションズとして取り組めるコミュニケーションなのではないかと思う。
■ ファンドレイジング・コミュニケーション
マーケティング・コミュニケーションというのは、たとえば市場で物を売る時に全然必要と思っていない人に必要だと思わせたり、同じようなコモディティの中でも価格政策をしたり、あるいはブランド力の高い商品であれば他の商品と差別化をして売っていくというようなことがある。
こうしたマーケティング・コミュニケーションの代わりに、寄付や協力を得ていくためのコミュニケーション(ファンドレイジング・コミュニケーション)がNPO法人に必要なのではないか。自分のNPOがやっている活動が他とはこういう風に違うのだ、こうだから重要なのだということや、ファンドの集め方について、これ位の金額だったら集めやすいというようなことのコミュニケーションを考えていくということが必要である。
■ リスク・コミュニケーション
人間がやっている活動であるし、様々な問題があるからそのための活動をしているわけだから、ある意味では、企業等の営利組織以上に、リスクに直面しているのではないかと思うので、リスク・コミュニケーションの対応も必要かと思う。
6.パブリシティとは
パブリシティというのは、企業・団体、組織が、メディアに対して社会性、公共性のある情報(ニュース素材)を自主的に提供し、メディアが持つ情報に対する関心を前提に十分な理解を得て、メディアの責任で主体的に報道してもらうことである。
■ 対象
直接的にはメディアであり、間接的には、その先にいる読者・視聴者が対象である。
■ 条件
パブリシティの活動が行える条件としては、メディアが報道する価値のあるもの、社会性、公共性、ニュース性があるものである。そして、あくまで情報選択権、報道決定権はメディアの側にある。
■ 特徴
特徴としては、客観性、信頼性が高く、消費者に第三者からの視点で伝わっていることが挙げられる。
また、一度メディアに露出したものはそれが引用されて広がりを持つことも、特徴として挙げられる。朝、テレビの情報番組等を見ていると、今日の一面チェックのようなコーナーがあると思う。メディアに一度露出したものというのは客観的な情報なので、このようにテレビで新聞のことを採り上げるというような直接引用の機会が生まれてくる。また、ヤフー等のトップページにあるトピックスも、クリックすると新聞がソースになっている。たとえば、発行部数が800万の新聞だとしても、その記事がオンラインでたとえば1日5万人アクセスのサイトに載ると、更なる広がりを持つことができるのがパブリシティだ。
こうした一次引用のみならず、たとえば週刊誌は1週間のタームで出ているため、深堀の記事を書いたりすることもできる。また、業界紙・専門紙と一般紙を比べると、一般紙の記者たちは、自分の専門分野の業界紙や専門紙を非常によく読んでいたり、逆に業界紙や専門紙の人たちが一般紙から自分たちに関係のあることを見つけてきたりするため、情報の川上・川下が入り混ざって、一次的な引用だけではなくて二次引用、三次引用という形で情報の広がりを持っていく。
そうなると、パブリシティで報道という形で情報が露出をした時に、それは単なる足し算や掛け算というよりも、階乗的に広がっていくことができるのである。
■ パブリシティと広告
パブリシティと広告は、情報を伝えるという最終目的は同じだが、その機能と特性が大きく異なる。
(1)担当部門と掲載面の違い
新聞や通信社、NHKの場合、広告と記者では採用枠自体が異なっており、専門職として入っていく。社内的にも、部署が明確に分かれている。
(2)情報の選択・決定権と発信主体の違い
広告は、媒体のスペースや時間を買って、そこに広告主が自分たちの伝えたいメッセージをだしていく。それに対して、報道や情報というのは、金銭の授受が発生せず、あくまでもメディア側が情報の選択、決定権を持っている。だからこそ報道に対しては一定の信頼性が持たれているのである。
(3)情報特性
広告はある程度主観的で情緒的、感情的なイメージなのに対して、パブリシティは客観的な事実が重視されている。
(4)接触度と信頼度
新聞や雑誌を買う時に、広告を見るために買うということはない。また、テレビも、コマーシャルを見るためにテレビをつけるということもなかなかない。記事や報道は、主体的に読者、視聴者が見ていくのに対して、広告はそうではないということだ。
では、パブリシティは広告よりも万能なのかというと決してそうではない。発信の主体が報道の側にあるので、いくら広報の人たちが頑張っても、報道する価値がないと判断されれば、露出することがないわけだから、非常に不確実なものであるというのがパブリシティの短所である。よって、統合型のマーケティング・コミュニケーションの世界では、色々な広告やパブリシティを組み合わせながらその商品、サービスにとって最適な売り方をしていこうということになる。それぞれの特性を活かして、有効に活用するということが重要なのである。
なお、NPO・NGOの場合は非常にリソースが限られており、スペースや時間をお金で買って露出させることには限界があるというのが現状である。そういう意味ではやはりパブリシティの方がNPO法人にとっては大事かと思われる。
ただ、パブリシティにも実はフリーのパブリシティの他に、ペイドパブリシティ(お金を少し入れることによって記事風に書いてもらう)という手法がある。たとえば、社会の木鐸として公平中立な報道を謳っているような大マスコミでは、そういったことは報道の死を意味するのであり得ないわけだが、逆に商業誌(ファッション誌や商品情報誌、旅行雑誌等)では、けっこうペイドパブリシティが行われている。また、テレビの情報番組等でも、編集・協力費という形でお金を入れることによって、自分たちが露出させたいものを出すという手法が使われている。これは、アドバトリアル(advertisement と editorialの造語)という言い方もする。パブリシティは確実性という部分が弱いので、そこを補い、けれども広告ほどは費用がかからないため、目的に応じて使っていくことができるわけだ。
■ パブリシティ素材
(1)ニュースとは何か
メディアの受け手にとって重要なこと、面白いこと、興味深いこと、関心の高いことがニュースである。一方、メディアは『社会の木鐸』といわれるように、受け手には関心がないことでも、世に警告を発し、社会を正しい方向に導くために知らせるという役割を持っている。
(2)ニュースの最低条件
事実であること、新しい事実があること、それから、客観的であることが最低条件である。
(3)ニュース(価値)の構成要素
5W1Hが明確であるということ。また、メディアの特性に応じた価値というのは、テレビの場合は速報性、同時性である。映像や音声を通してリアルに起こっている状況を伝えることができるので、ビジュアルに非常にインパクトがあるものだったらテレビに持って行ける。逆に、じっくり読ませるとか、複雑な思考経路をたどって理解が必要なものについては、紙媒体の方が適切である。また、双方向で受け手の側の声も更にニュースにしていこうという流れであればインターネットがふさわしい。このように、メディアの特性に応じたニュースの価値があるということだ。
(4)ニュースの特性
①新しさ。
②タイミング(相対価値):たとえば私は熱海観光戦略プロデューサーという仕事をやっているが、昨年の夏、衆議院選の最中に、メディアキャラバンを行う提案を受けたが、そのような時期に行っても、新聞等に絶対に相手にしてもらえないと説得したことがある。ニュースというのは、相対的なものである。小さい情報であると、どうしても即時性や、あくまでも相対的な価値によって、飛ばされてしまうことがあるわけだ。
③地域性:メディアというのは最も集中しているのは東京で、次に関西圏、名古屋圏、九州と言われている。つまり、東京で記者会見してもなかなかメディアに出ないが、地方で行い、しかもそこに関係性のあるものとなれば、その地域で露出をしやすくなる。
④著名性:有名な人等が絡んでくると、やはりニュースになりやすいということだ。
⑤影響度:読者あるいは視聴者に対しても、影響の大きいテーマであればよりニュースになるし、全く関係のないことであればニュースになりにくい。
⑥異常性(非日常性):異常犯罪等の滅多にないようなことがニュースになりやすい。
⑦地理的近接性:たとえば北朝鮮の独裁政治は我々にとっては非常に身近なテーマである。だが、ヒューマン・ライツ・ウォッチの統計の中では、北朝鮮よりひどい独裁国家といわれる国がアフリカにあるのにあまり知られていない。つまり、自分の身近なところで起きたことはニュースになるが、離れているところで起きていることはなかなかニュースになりにくい。この辺がミレニアム・プロミスにとっても非常に課題なのではないかと思う。
⑧メディア報道の独占性:メディアは、自分たちがいち早く、より重要な報道をしていきたいという性質のものである。
以上のことを、自分たちのNPOの活動がパブリシティの素材、ニュースの素材としてふさわしいか否かの判断基準にしていただければと思う。
7.パブリシティの手法について
■メディアリレーションズ・プログラム(パブリシティの手法)
パブリシティの手法として、記者クラブ発表と自社発表がある。
・記者クラブ発表
記者クラブ発表とは、記者クラブを通じて発表していくこと。一社一社回らずに一回で済むということがメリットである。
・自社発表
自社発表とは、記者クラブを介さずに自主的に行うプレス発表の方法である。メリットとしては、記者クラブに入っていないメディアに対しても、直接発表したい時に実施することができる。
一般的に企業の場合でいうと、記者クラブ発表が4割程度、自社発表が6割程度と言われている。
・各手法
①記者会見:企業のトップあるいは役員以上が直接説明するという手法である。一定の会場を準備し、想定問答集を準備して、記者に集まってもらう。忙しい記者たちを集めて発表するにあたり、何も新しいことやニュース性がないことを発表するということは許されない。やはり、それなりのニュースがある時に、大勢に一度に発表する必要があるときに行う。
②ニュースリリース 資料発表:ニュースリリースという形で一斉に情報を発信する。
③トップとの懇談会(プレスランチョン):パブリシティというのは、情報を報道、ニュースに提供して露出をさせることを目指していくわけだが、すぐに出るものとそうでないものがある。自分たちのNPOの活動の理解者作りということもあれば、すぐ露出させたいというほどのニュース性がないものの記者の頭に是非入れておいてもらいたいことについては、トップとの懇親会が非常に有効かと思う。これはもちろんフォーマルなセッティングをして、関係のある記者の方たちにお声掛けをして、自分たちの組織、あるいは活動、あるいはそのとき伝えたいことを理解していただく機会をもっていくということだ。
④新しいサイトや施設の見学会:皆さんのNPO法人の活動の領域によるが、施設や工場がある場合はその現場を見ていただくことは非常に有効だと思う。
⑤プレスツアー:海外や地方にある研究拠点や工場に招待して見学してもらうという、企業側ではよくある手法である。各社メディアの方たちにお声掛けをして行っていただくわけだが、メディアによっては、旅費を一切受け取らないところもあれば、企業の側が旅費、交通費あるいは宿泊費に対して便宜をはかる形で記者に書いてもらうというケースもある。NPO法人にとっては、旅費を出すことさえも大変厳しい財政状況のところも多いのではないかと思うが、それを工夫して、たとえば、食費はある企業にだしていただき、交通費は別の企業にだしていただき、宿泊費は更に別の企業にだしていただくというようなことによって実現可能かと思う。
⑥プレスセミナー:専門知識や業界事情、研究成果等をレクチャーする。自分たちのNPOで活動している分野に造詣が深い方や、その領域について広範な知識をお持ちの方たちを講師として招いて、自分たちの活動の前提となる社会や世界の状況を、きちんと第三者に説明をしていただく。著名な先生にレクチャーをしていただけば、記者にとってもより魅力的だと思う。そうした場にメディアが来た場合には、記事にNPO法人の名前がちらっとでも出るというのが重要だと思う。
⑦プレスプレビュー:これはあまりNPO法人に関係がないかもしれないが、美術館やアミューズメント施設等ではよくある手法だ。事前にプレスの方たちにご見学いただいて、オープンの日には記事になっているという手法である。
⑧ニューズレター:ニュース性はさほどないが、企画のヒントやデータとして活用してもらう情報提供の活動である。この辺も、私は非常にNPO法人にとっては有効ではないかと思うし、実際に私も色々なNPO法人の方からニューズレターをいただいている。メディアの人に限らず、色々な形で支援をしてくださる方に対しても、自分たちが今何を考えて何をしているのかということをお伝えしていく上でも有効である。また、メディアに対しては、プレスランチョンと同様に、定期的に自分たちがやっていることをアップデートしていって、記者に認識してもらって頭の片隅に置いてもらうための手法である。
⑨調査パブリシティ:調査データ、研究データを提供して、パブリシティに結びつける。たとえば皆さんご存知のように、お正月、新聞に今年のお年玉の平均額が載っていて、○○銀行調べ、というのが出ると思う。その銀行は、調べることが目的というよりは、その調査パブリシティをすることによって、銀行の名前がメディアに露出するということが目的なのである。もちろん、NPO法人の特性にもよるが、様々な現場で色々な調査をしていると思うので、そういう意味ではそうしたデータをメディアに発表していくことは有効である。更にいえば、たとえばボーナスの平均額を発表するのであれば、一般的なボーナス支給日や、バーゲン開始日にあわせる等、タイミングの適切性が重要である。他にも、11月22日(いい夫婦の日)であれば、結婚に関連するデータを、7月7日(七夕)であれば、恋愛に関するデータを発表する等、その時その時のタイミングにふさわしいデータを発表していくことによって、よりメディアに露出をしやすくしていく方法をとる。
⑩トップインタビュー:トップがインタビューに答えることによって露出をしていく。
⑪メディアプロモーション:対談、寄稿、コラム等へのパブリシティである。メディアはその媒体ごとに、色々なコラムや特集、対談等を持っている。そうした媒体ごとの特性をよく研究して、自分たちのNPOの活動の情報を露出するのにふさわしい場を探しだし、露出へ向けての努力をしていくことである。
・記者クラブ制度について
記者クラブには、記者クラブごとのルールがある。たとえば、資料配布については48時間前までに幹事社に申し込むという48時ルール等がある。幹事社は、3か月程度ごとに交代するが、幹事次第で、情報の送り方等も変わってくる。
■ ニュースリリースの書き方
ニュースリリースは、パブリシティの代表的な手法であり、うまくいけば、非常に費用対効果が高いやり方である。情報を一度に、紙あるいはメールで送るのだが、概して日本のメディアはまだまだ紙で送られてくることを好む傾向がある。一方、海外メディアの人たちは、わりとメールで送られることを好むので、メディアの特性に応じて送り方を考えていかねばならない。
・ニュースリリース
ニュースリリースとは、メディアに提供する情報が、記者や編集者が一読して分かるように要領よくまとめたデータ、ニュース素材になる発表資料ということである。
・前提
メディアにとってニュース価値があるものかどうかの判断が必要である。それから、5W1Hの要素が入っていなければ成立しない。よくNPO法人の方で、メディアの特性をあまり理解されていない方に、ニュースリリースを作ったので添削してほしいと頼まれるのだが、その情報をネットで検索すると既に出ていることがある。既に皆に知られていることはニュースでも何でもないということを、大前提として理解していただきたい。また、リリースというのは、ホールドしていたものを一遍に放つというイメージである。よって、公平に、一斉に、今まで皆が知らなかった新しいことを出すということがニュースリリースの大前提であることを理解して作っていただきたい。
・作成ポイント
作成のポイントとしては、タイトル、冒頭の文で5W1Hがあるということである。
新聞記事というのは、逆三角形の構成と言われている。最初にリードと見出しがあり、袖見出しがある。リードだけ読むとある程度ニュースというのはわかって、それより後ろに行けば行くほど詳しくなっていく。新聞というのは記者が書くわけだが、見出しをつけたり、新聞の中に色々な情報がおさまるようにしたりするのは整理部というところが行う。紙面にきちんと収まるサイズにするため記事を後ろから切っていくわけだが、どこで切っても意味がわかるというのが良いニュースの記事と言われている。よって、報道にそのまま記事として転用されるということもたまにある。しかし、新聞にそのまま使ってもらう必要はあまりないので、それほどスタイルにこだわる必要はないかと思うが、逆三角形の構成であるということは重要である。
1リリース1テーマというのもポイントである。NPO法人の方で、情熱的な思いを抱えてやっていらっしゃる方は、伝えたいことが溢れてきて、あれもこれもニュースリリースに入れたがる方がけっこういらっしゃる。しかし、ニュースリリースというのは、できれば1枚、長くて2枚か3枚程度が望ましい。メディアの方たちは多くのニュースリリースを受け取っているので、見た時に即取材をしようと思ってもらえるニュースリリースにしていくことが大切である。
それから、センテンスを短く、主述関係を明確にする。
また、専門用語を多用しないということも非常に重要である。自分たちの業界では当たり前と思っていることで、メディアの人がわかっていたとしても、その先にいる読者の人にはわからないかもしれない。なるべく、人口に膾炙されている言い方に置き換えることが大事である。
A4レイアウトを工夫することもポイントである。
それから、数字と固有名詞のチェックもポイントである。メディアの特性として、客観性が非常に重要になってくるため、データや数値的な裏付けがあるのであれば、なるべくそれを用いることで、ニュースとして取り上げられやすいと思う。なお、そのニュースリリース自体が一次ソースになっている場合だと、そこで固有名詞が間違っていれば、メディアに対して誤報をさせてしまうことになる。そういう負の関係を築かないためにも、ここは絶対に間違えてはいけないということだ。
問合せ先の明確化は、なるべく個人の名前を入れた方がよいかと思う。特に速報性が求められるものについては、携帯の番号等も必要だと思う。
最後に、リストのアップデートについてだが、そもそもニュースリリースをどこに送るのかという根本的な問題があると思う。普通はメディアリストというものを作るが、当然テーマによって送るメディアが違う。まずは、自分たちのNPO法人に興味関心を持っていただいて、露出に結びつくようなメディアのマザーとなるリストを作る。たとえば、PR会社では個人まで特定してピンポイントでやっていくが、せめて部署程度は特定したい。専門誌や業界紙等でそもそもどういう媒体があるのかわからない人は、たとえばマスコミ電話帳やPR手帳のようなものを書店で購入してもよいし、今の時代はネットである程度検索をすることもできる。ただ、テレビ番組は頻繁に番組改編が行われるし、雑誌も創刊されたり廃刊されたり、新聞も一つのコーナーが違うコーナーに変わっていったりするので、こうしたリストをアップデートすることは非常に重要である。
日本の新聞記事は、欧米の記事に比べて署名記事が少なく、編集委員クラス以上でないと名前が出ない媒体も多い。そのような状況で、記事だけを見て担当記者を探すのは非常にまだ難しい。一方で、皆さんが活動されている分野の記事を検索して、記者の名前を特定し、その人たちがこれまでどのような記事を書いているかということを分析してぶつかっていくというのも、やり方としてあるかと思う。
お仕事をしっかりされていて、普通に人とコミュニケーションできて、文章力があれば、ニュースリリースは書けると思うのだが、メディアリストを作るというのがけっこう大変で、企業広報の方たちも頭を痛めている部分ではないかと思う。民間の営利を目的とした企業であれば、たとえばPR会社にアウトソースする方法もあるが、決して安くはない。やはりここは、ある程度やり方がわかっている人や、自分の組織の中でやり方を確立して、あとは人海戦術で一気にやることが大事だと思う。
8.広報担当者の役割とメディアリレーションズの原則
(1)広報担当者と記者の関係
メディアと広報担当者の間の双方向コミュニケーションが不可欠である。メディアの人たちは常に情報を求め、それを分析し、切り取って、記事にしていくため、ある意味、彼らは一種の歴史学者である。そうした人たちから自分たちの業界はどういう見方がされているのか、自分の活動範囲、活動領域の中でどういう風に捉えられていて、他にどういうことを知っているのかということを逆に教えてもらえるような関係構築をしていくということが望ましいと思う。
PRをやっている人たちにとっては、記者の方たちは記事を書いてくれる人という立場にあるので、上と下のような関係に捉える人たちもいる。しかし、メディアと記者というのは、私は全くイーブンな関係だと思っている。それは、自分がアメリカでPRを勉強したからということも大きいと思う。日本のメディアを批判する気は毛頭ないが、どちらかというとジェネラリストを育てていくのが日本のメディアで、色々な分野をカバーされていて、わりと異動のテンポも速い。また、記者クラブがあるということで、私の感覚としては、アメリカの記者たちほど情報に対して貪欲ではなく、大企業のリリースは読むけれども、知らない所のリリースは読まないような方も中にはいらっしゃる。そういう意味では、メディアが上で広報担当者が下、というようなことが、日本の中ではけっこうある気がする。しかし、メディアの大不況と言われる中、大マスコミの人たちにも人材の流動化が起きてくるだろうから、この辺の関係性というのは変わっていくかと思う。
私は、PRをやっている若い人たちに、自分たちが情報を提供していること、また、そのメディアにふさわしい切り口やストーリーを提供しているということには誇りをもって情報を出していこうと言っている。自分たちがその情報を出さなければ、メディアに載ることはないわけだし、その先にいる読者や視聴者に、私たちが本当に伝えたいことが伝わらないのである。
(2)広報担当者の条件
・心構え、姿勢
相手の記者は、ときには自分よりもすごく若かったり、本当にカジュアルな方たちもいらっしゃったりするが、その人のその先には読者や視聴者がいるわけだ。また、その会社を代表して自分たちのことを取材してくれているということを忘れてはならない。
それから、たとえば新聞であれば朝刊・夕刊の降版の時間、月刊誌であればどの時点で取材を働きかければ自分たちの出したいタイミングに記事を出すことができるか等、メディアについて、広汎で深い知識、取材・編集プロセスやマスコミの視点や考え方についてなるべく勉強していくということが必要になっている。
自分たちの活動やNPOの説明は大事だが、それを取り巻く状況や、同じ分野に取り組んでいるNPOについて等も勉強していくことが大切である。メディアが求める公平性という性質から、同じような取組や、あるいはコントラストをなすような括りで、自分のところを一緒に採り上げてもらうチャンスにもなる。
・必要な資質・能力
人と上手く接するコミュニケーション能力、情報素材を形にする文章力、編集能力、人と人とを仲介、調整する役割からもバランス感覚のあるコーディネイト力、様々な事象や情報を評価・分析し、その本質を理解し、判断する力が必要とされる。
広報担当者の条件ということでは、私は自分のPRの師匠から、パブリックリレーションズは略してPRだけれども、実はこのPRというのは、パーソナルリレーションズなのだということを教わった。メディアというのも結局は人間で構成されていて、大マスコミの考え方や傾向、スポンサーとなっている企業等、色々な思惑が絡まり合い、そのフィルターを通して、自分たちが伝えたいことが記事化されている。NPOだったら、自分たちが一生懸命活動していて、その先にいるのも人間だし、それを採り上げてくれるのも人間だし、それを情報として受け取るのも人間だということで、究極のパブリックリレーションズは、実はパーソナルリレーションズなのである。記事として採り上げてもらいたい一心で、針小棒大になってしまうときもあるかもしれないが、人間として誠実であるとか、思いやりを持つとか、真心を持って接するとか、相手の立場に立つとか、非常に当たり前な姿勢が、広報担当者の条件であると思う。
(3)メディアリレーションズの原則
スピーディな対応は、自分たちが情報発信する場合はもちろんそうだが、メディアの側から問い合わせや取材を受けるときも重要である。取材を受けるということは、何か大変な状況にあるわけなので、取材を受けるよりも先にやらねばならないようなことがある忙しい状況の場合が多いと思うが、そうした時にこそ、スピーディに対応してあげることが大事だ。
また、誠実、正直であることは、リスク・コミュニケーションにおいては、本当に大原則である。そして、公平な情報公開というのも原則である。
9.誤報発生時の対応
誤報発生時には、報道内容と事実が具体的、客観的に違っていることの証明が不可欠である。間違っているといっても、ニュアンスが違うというレベルだとなかなか誤報として指摘して、訂正をしてもらうことは難しい。なお、レベル別の対応法は、重要度の低い順に、以下のとおりである。
①低レベルの誤報の場合、データベースがメディアの側にあれば、データベースの訂正のみを要求する。人物のプロフィールにありがちだが、プロフィールの間違いが一回出ると、それが繰り返し使われてしまうので、そのデータベースだけは直しておいてもらう必要がある。
②内容が全然違うような場合には、訂正文の掲載を要求する。
③具体的な被害や、自分の組織に不利益を被っていくような段階になると、謝罪文及び訂正文の掲載の要求をしていく。
④更に重要度が増すと、抗議文を提出して、謝罪・訂正文の掲載を要求する。更に重大なダメージを与えるような誤報の場合は、法的手段に訴える。
⑤大きな風評被害や報道被害に結びついてしまうような場合は、記者会見を開いてその誤りを訂正する。
10.日本のメディアの特徴と将来
4大マスコミ(新聞、雑誌、テレビ、ラジオ)は残念ながら、全て影響力が低下している。総務省の調べでは、2007年までの10年間で、社会に流通している情報量は530倍になってしまった。昔は新聞、雑誌、テレビ、ラジオしかなかったのが、若い世代は携帯電話やアイポッド等、色々なものが周りに溢れている。退屈だからテレビを見るなどという必要もなくなってきたし、新聞のような速報性が必要なものに関しても、ネットで自分の関心のあるものだけをピックアップする時代になっている。
(1)日本のマスメディアの特殊性
マスのスケール(巨大部数、巨大視聴者数)が欧米諸国と比べて大きいことが特徴である。読売新聞が1000万部、朝日新聞朝刊が800万部なのに対して、ニューヨークタイムスは100万部、ワシントンポストは80万部である。日本は国土が狭くて中央集権的な国家なので大マスコミが発達したのに対して、アメリカは国土が広大であり、時に連邦政府よりも地方自治の方が優位であることから、地方紙が発達していることもある。日本では、それだけマスのスケールが大きいので、大新聞に出るとやはりそれだけインパクトがあるということだ。
(2)日本のマスメディアが現在直面すること
夕刊を廃止する新聞が増えてきている。そして、読者の高齢化と若年層の新聞離れがある。テレビの視聴時間は減少傾向にあり、特に若年層でその傾向が強い。録画技術の進歩によるCM飛ばしや、ながら視聴が増加している。それから、90年代の発行部数の半数になる雑誌が続出したということで、創刊されている雑誌ももちろんあるが、全体的には廃刊になったものが多い。今は、SNSをはじめ、コミュニティが存在しているので、雑誌から情報をとろうという人が段々減ってきてしまったというのが現状である。
(3)マスメディアの将来
情報集積の巨大プラットフォームの出現説というものがあり、テレビやウェブ、紙媒体が連動した巨大プラットフォームができるのではないかと言われている。
コングロマリット化というのは、たとえばアメリカだったら、映画の配給会社と雑誌の会社と新聞社、ケーブルテレビが一体化した、巨大なメディアになっているということである。日本でも新聞とテレビの連携等の流れがある
他人のことを知るよりも自分のことを知らせたいという変化は、双方向コミュニケーションである一方で、マスよりも身近な口コミから情報を得たり、自分でブログを書いてツイッターでつぶやいたりするような流れである。
そうは言っても、インターネットのコンテンツは、結局は新聞やテレビが一次情報であるので、必ずしも4大マスコミも悲観しなくてよいのではないかという部分もある。取材して報道するという根本的な部分は、やはり4大マスコミの最前線の記者や編集者やディレクターやプロデューサーに負っていくことが多いということだ。
11.ファンドレイジング、啓発へのコミュニケーションの参考に
NPO法人のための具体的な手法がアカデミックに確立しているわけでもないし、我々PR業界でも、実際にNPOの広報が専門だという人は、日本では残念ながら私もほとんどお会いしたことがない。PR協会にも、NPO法人で会員になっている方はいない。ただ、PRプランナーという資格をNPO法人の広報の担当者が個人で受けているというような実状はあるということだ。そういう中で、自分たちの活動の原動力となっている社会や世界の情報を皆に知ってもらうためには、企業でいうところのマーケティング・コミュニケーションというのがそれに近いと考え、マーケティング・コミュニケーションについても知っておいていただこうと思う。
(1)情報環境の変化
10年間で社会に流通している情報量は530倍になったが、私たちの情報の処理能力が530倍になったわけではない。そういう中で、情報として流れてはいるが、実際に自分たちがメッセージを届けたい人たちに本当に届いているのかというのが、今の世の中である。
(2)統合型マーケティング・コミュニケーション
Integrated Marketing Communication、略してIMCと言い方をよくする。相手に情報を伝えるために、時にはパブリシティを使ったり、時には広告を使ったりして、色々な形で色々な組み合わせでやっていくのがIMCである。
(3)マーケティングPRの役割と機能
具体的な例をお話しする。少し前に、ある食品メーカーの朝カレーのコマーシャルをやっていた。これは非常に戦略的に、パブリシティとテレビ広告とを諸々組み合わせたIMCの事例である。
最初は調査パブリシティで、朝カレーを食べると脳の働きがよくなるというデータを発表した。それをオンラインメディアが採り上げて、それが雑誌やテレビ等に採り上げられるようになり、更にそれを深堀する情報番組があって、朝カレーがよいらしいという流れができた。今度は、イチローが朝カレーを食べているというのがニュースとして流れた。それでますます裏付けされて、そういうムードが醸成され、最終的には朝カレーのコマーシャルをして、製品が店頭に並んでいく。今度は、流通の中で朝カレーが店頭の棚の中で一番目立つところに置かれるようになる。そういうことを繰り返していくというのがIMCであり、色々な手法を組み合わせて一つのものを売っていく。
認知度アップやイメージの確立というところでは、iPhonやiPadを例に挙げると、皆さんテレビコマーシャルをやる前から製品を知っていたと思う。アップルは表現として、「革命的」という言い方をいつもしているが、どうしてもメディアはそこに目が行くし、発売の前から圧倒的なファンが並んで購入を待つことがニュースとして流される。それこそまさにパブリシティである。発売の前には色々な報道番組や情報番組でキャスターの人が使用してみる様子が報道情報として流れて、いよいよ発売されると、その日からテレビコマーシャルが流れるようになっていくという仕組みになっている。
テレビコマーシャルを一斉に流す仕組みというのは、なかなかNPO法人では難しいと思うのだが、自分たちが今度こういう活動を始めるという時期に、今世の中がこうなっているという調査をして、調査を発表して、少し話題にして、その中で、それを解決するための対策を講じるようなNPO法人の活動があるという情報の流し方をしていくというやり方だと思っていただければと思う。
(4)製品のライフサイクルとPR
製品の成熟期について話すと、たとえばミツカンが、「優しいお酢」という商品を、酸っぱいのがちょっと苦手な人向けに出した。これは、製品カテゴリー的なリポジショニングというものである。それから最近だと、ヤマサのお醤油が、フレッシュさが大事だということで、小分けになった。キッコーマンも今までの大きいボトルから小さいボトルに変えて、使いきるまでのタームを短くすることでリポジショニングをした。
NPO法人の活動とリポジショニングがすぐあてはまるかどうかはわからないが、たとえば食糧危機が大変だとか、こういう地域で難民が大変な思いをしているということは言われて長いが、実はその解決が進んでいないというようなことがある。そうした時に、どうやってもう一回このことを皆に思い起こしてもらって、新しくニュースとして採り上げてもらうかという部分において、リポジショニングということは非常に重要になってくると思う。
(5)顧客の購買プロセスにおけるPRの役割
PR活動を先行させて社会が関心を持つような議題を投げかけ、環境が整ったうえで、広告メッセージでその答えを提示するという、PRファーストがマーケティング・コミュニケーションのセオリーの一つとなっている。
例を挙げると、ある食品メーカーが、まず女性は冷えるということを社会のアジェンダとして出した。ミスキャンパス等が色々な冷えについてネット上で悩みを言ったりして、色々な雑誌が女性の冷えの悩みを採り上げるようになり、冷えが体に悪いという警戒心が生まれていく。そこに今度、生姜の効能の話がでてきて、生姜は殺菌作用があるだけではなく、実は冷えにすごくよいのだということを裏付ける記事をたくさん出す。その後にいよいよ食品メーカーが、生姜を使った製品を販売するという手法である。
このような手法を、是非NPO広報の中で役立てていただければと思う。
最近、アメリカの製薬会社が非常によくやっているのは、たとえばマラソンをやることを通じて、特定の疾病に関して啓発をして、最終的にはそこのお薬を買ってもらうという手法である。企業にとっては、薬を買ってもらうことがゴールなのだが、結果的には社会にとってプラスになるということであれば、決して否定的な側面だけではないと思う。
(6)社会志向のマーケティングとPRの役割
社会的課題に対して積極的に対応していこうとする企業のマーケティングを社会志向のマーケティング(ソーシャル・マーケティング)という。消費者の利益と公共の利益、CSRとの連携、国民運動のようなものが挙げられる。
たとえば、今農水省がやっている「フードアクションニッポン」はその典型的なものである。お米を食べてもらうために、若い人向けには若い人向けのご飯を食べるようなメッセージ発信し、たとえば飲食店には卵ご飯のブームを作っていく。こうしたものも、食糧自給率を上げていくためのソーシャル・マーケティングの方法である。
12.質疑応答
Q1:NPOの広報について、広告等は全く出ないし、企業のように作っている商品もない中で、NPOの広報の一例があれば是非うかがいたい。
A1:IPRA(International Public Relations Association)という団体があるのだが、15年位前からNPOが、そこのPRアワードのグランプリをとったり、部門の優秀賞をとったりするケースが非常に増えている。社会の中で認知を高めていく上で、メディアにアプローチをして、情報提供をして、露出をさせていくというところで、それが非常に評価をされて受賞をしているわけだ。お金がない、売るものもないという中で、どうやってファンドレイジングをしていくか、自分たちの活動を知ってもらうか、更に言えば、目的を達成するのに上手くメディアや世論の支持を獲得して後押しをしてもらうための知恵の結晶だからこそ、そうしたNPOが受賞しているのではないだろうか。
アワードについては、IPRAのホームページでご覧いただける。また、PRSA(Public Relations Society of America)のサイトにも結構事例が出ている。
私の経験でいうと、本部がアメリカにある日本のNPOのお客様がいた。日本ではNPO業界の人は知っているが、一般の人や企業の人はほとんど知らないというようなNPOだったのだが、理事が来日するので、インタビューを獲得して、その組織の認知を上げたいということだった。その理事というのは、昔日本では知られていたが過去の人というような存在の人だった。そこで、その理事の専門性をとことん列挙して、一方で、ある程度社会的地位のある理事なので、その分野の記事を集めて、各新聞の編集委員以上でその分野を書いている記者を特定した。そして、その人がどういう分野の記事を書いているかということを徹底的に分析して、その中でかなり重なる部分があるところをピンポイントにアプローチした。その結果、日経と読売にそれぞれ5段位のインタビューを出していただくということができた。
先ほど述べたようなiPhoneや食品メーカーの話は、ある程度のリソースがあって、そこにお金を投じることができるために、大がかりな仕掛けができるわけだが、実際には、非常に地道な活動で、頭を使ってやっていくことだと思う。
あと、やり方としては、日本でNPOのことを採り上げてくださる記者の方は少ないので、皆で取り合いになってしまうようなところもあるかと思うが、そういう人たちとの関係の中から次を紹介してもらうやり方があるのではないか。
私自身は、ラグジュアリーメディアの代表例と言われるセブンシーズという富裕層の方たちが読む雑誌で12月になるとチャリティ特集をやるので、そのNPOが露出するようにそこにぶつけられないかと思い、色々アプローチをした結果、絶妙のタイミングということもあり、4ページほど掲載してもらったことがある。どこのターゲットにするか、どこの人たちに自分たちのメッセージを届けたいかによって当然媒体も変わってくるし、その媒体によって手法も変わってくる。起きている問題や現状については、一人でも多くの人に知ってほしいが、ファンドレイジングについては、ラグジュアリーメディアを対象として情報提供をするというやり方もある。また、NPOの中で頑張っている個性があるような人たちにフィーチャーするというのも、露出の中では有効かと思う。
Q2:日本のPRとアメリカのPRのことを引き合いにだされていたが、たとえばヨーロッパ型や南米型、アジア型等のおおまかな傾向というのはあるのだろうか。
A2:私のお客様でヨーロッパの方がけっこういるが、EU加盟国のヨーロッパに関しては、あまりアメリカと変わらないと感じる。イギリスは非常にPRに対しての信頼度やポジションが高い感じがする。ただ、ヨーロッパは国土が狭いので、地方紙がそれほど発達していない国もあるので、わりと日本的なやり方でうまくいくケースもある。PR会社や個々の広報でも、グローバルにやっているところと、ローカルにやっているところとで、全然傾向が違う。たとえば日本でも、アメリカに本部があるPR会社はけっこう進出しているが、日本のメディアが特殊なので、うまくローカライズできずに撤退するケースがある一方で、アメリカでのノウハウをうまく日本でローカライズして成功しているPR会社もある。ということで、日本の企業でもアメリカでやるときは現地のPR会社を頼むという企業もすごく多い。ステークホルダーも様々だし、パブリックリレーションズなので、そこの文化的な背景や言語的な背景、メディアの違い等をよく把握している必要があるので、そういう意味ではローカルの人にやってもらう方が、遠隔操作するよりは現実的という感じだ。
中国では、この5年位、PR会社が爆発的に増えている。中国はメディアの検閲もあるし、国家統制があるので、いかに政府の人を巻き込むことによってメディア露出に結びつけるかが大切であると聞いている。アジアにおいては、お金をまいて書いてもらうようなこともある一方で、それこそボールペン一本も受け取らないような厳格なところもある。
Q3:ブログやSNSやツイッター等が出てきて、テレビ離れが進んでいるものの、取材をする能力というのはまだまだメディアの側にあるというお話だった。今後の広報を考えてみると、ピンポイントのアプローチがますます大事であるということだったが、ますますピンポイントが難しくなる気もするがいかがだろうか。
A3:おっしゃる通りで、メディア環境の変化に対して、自分たちの活動をどう変えていくかということは、広報の課題だと思う。たとえば、ホワイトハウスが記者会見にブロガーを呼んだり、最近のよく知られている例だと、スターバックスがメディア向けの記者発表を行った後にブロガー向けの新製品の発表をやったりしたことが、段々と一般的になってくる。SNSやツイッター等に対して、皆知恵を絞ってやっているが、ソーシャルメディアの発達については、本当にまだ誰も答えを示していないと思う。
ただ、価格ドットコムや食べログのように、身近な評価や口コミが、マスメディアとは違った一つのパワーになっているということは確かだと思うので、NPO法人がこの辺をどう使っていくかというのが知恵の出しどころなのではないかと思う。
【講師略歴】
米国コロンビア大学国際公共政策大学院で米国の政治・行政広報を研究し、行政学修士を取得。世界銀行、内閣府政府広報室など、国際機関、中央官庁、国内外の地方自治体の広報戦略立案・実務を担当。ミレニアム・プロミス・ジャパンの立ち上げでは、記者会見やプレスキットを担当。現在、六本木ヒルズアカデミーにおいて、㈳日本パブリックリレーションズの認定資格制度・PRプランナー養成コースの講師を務める。