毎年1月30日に開催される「世界NTDの日」は、 世界中で「顧みられない熱帯病(NTDs)」(※1)に対する意識を高め、行動を促すための重要なイベントです。
2012年に「(NTDsに関する)ロンドン宣言」が署名され、同時に世界保健機関(WHO)が初めてNTDsロードマップを発表したことを記念して制定した「世界NTDの日」は、WHOが公式に定めた「11の世界保健デーと2つの健康週間」の1つとなっています。
この日は、NTDsとの闘いにおいて、これまでの歩みを記念し、現在進行中の課題に注意を喚起し、新たな可能性を探る重要な日となっています。また、これらの病気とともに生きる人々を認め、命を落とした人々を追悼し、NTDsに苦しむコミュニティを支援する時でもあります。「世界NTDの日」は、行動と投資を促すことで、これらの病気を制圧し、世界中の何百万人もの人々の生活を向上させるための取り組みを加速させることを目指しています。「世界NTDの日」の包括的な目標は以下の4つとなります。
1.NTDsの予防・制圧・制圧の成果を紹介
2. 資金調達の提唱
3.各国からの介入と地域協力の強化
4.各地域での活性化とエンゲージメントの促進
SDGs・プロミス・ジャパン(SPJ)は、Uniting to Combat NTDs(※2)のパートナーとしてUniting to Combat NTDsが2025年の「世界NTDの日」に向けたメッセージをご紹介します。
2025年の「世界NTDの日」のテーマは“Unite. Act. Eliminate.”(団結し、行動し、制圧しよう)です。このテーマは2023年にギニア・ビサウ共和国のエンバロ大統領が呼びかけたもので、団結された行動と投資を促進することの重要性を引き続き強調しています。
このテーマを促進するため、3つの優先課題に重点が置かれました。
・気候変動とOne Health
気候変動は、NTDsの原因である病原体や媒介生物に影響します。従って、これらの影響を軽減すべく行動を起こす必要があります。また、ワンヘルスアプローチを採用することで、人間、環境、動物の健康との関連性と、気候の変化による感染伝播のリスクをより適切に把握することができます。
・保健システム強化(HSS)
NTDs対策は、ユニバーサル・ヘルス・カバレッジ(UHC)の進捗を測る『リトマス試験紙』と言われています。 すなわち、NTDsへの取組なくしてUHCの達成はできません。そのために保健システムの強化が必要です。
・個人中心のアプローチとコミュニティ主導のアプローチ
持続可能で効果的なNTDsプログラムのためには個人中心のアプローチをコミュニティ主導のアプローチが不可欠です。個人中心のアプローチは、医療提供者とコミュニティの間に信頼を築きます。人々が自分の意見を聞いてもらい、評価されていると感じると介入に参加し、治療を順守し、コミュニティ内での健康イニシアチブを提唱する可能性が高くなります。
2024年までの成果としてUniting to Combat NTDsから以下が報告されています。
・NTDsの制圧:
2024年だけでも、チャド(アフリカトリパノソーマ症)、ヨルダン(ハンセン病)、ブラジル(リンパ系フィラリア症)、パキスタン(トラコーマ)、東ティモール(リンパ系フィラリア症)、インド(トラコーマ)、ベトナム(トラコーマ)の7カ国が、NTDsの制圧をWHOに認められました。
・WHOのNTDロードマップ目標の半分以上を達成:
現在、54カ国がNTDsを制圧しており、2030年までに100カ国がNTDsを制圧するというWHOの目標の半分以上を達成しています。
・アフリカ大陸での進展:
22カ国が少なくとも1つのNTDsを制圧し、複数のNTDsを制圧した国もいくつかあり、アフリカ大陸の公衆衛生に対する強いコミットメントが浮き彫りになっています。
・記録破りの成果:
10カ国(バングラデシュ、カンボジア、コートジボワール、ラオス人民民主共和国、マラウイ、パキスタン、ウガンダ、バヌアツ、ベトナム、イエメン)で2つのNTDsを制圧。4カ国(ベナン、ガーナ、インド、メキシコ)で3つのNTDsを制圧。2022年には、トーゴがギニア虫症、リンパ系フィラリア症、睡眠病、トラコーマの4つのNTDsを制圧した最初の国となりました。
・産業界からの寄付:
製薬業界は、2021年から2030年にかけて190億単位以上の医薬品の投入をコミットしており、NTDsとの闘いにおける進歩を加速させ、公平な治療アクセスを確保する上で重要な役割を果たしています。
・サクセスストーリー:
NTDsの制圧は、グローバルヘルスで最も素晴らしいサクセスストーリーの1つであり続けていますが、未だに認識されていません。
・生活と経済を変革:
NTDsの制圧により、成人は仕事に復帰し、子どもは学校に通えるようになりました。これに伴い、生産性と教育が向上し、国家経済成長が促進されます。
・投資に対する大幅なリターン:
家族や政府の医療費が削減されることで、他の優先事項にリソースを割くことができると同時に、心身の健康を改善し、スティグマを減らすことができます。
・広範な取組:
2023年だけでも8億6,000万人以上がNTDsの治療を受けました。
・協調的な取り組みの成果:
NTDs制圧の進展は、世界的な協力と持続的な努力の成果を示しています。
いくつかの国々での取組も紹介されています。
① パプアニューギニアでのリンパ系フィラリアのMDA(※3)実施風景 (2024年11月)
② ペルーでの駆虫
駆虫(くちゅう)とは、害虫や寄生虫を薬品などによって駆除すること
③ パキスタンでのトラコーマ治療
世界的なイベントとして、1月30日にはウェビナー『Stories That Inspire – Testimonials and Solutions for Neglected Tropical Diseases』が開催されます。
詳細⇒ https://bit.ly/3Wsvd20 (英語サイト)
日本では、「世界NTDの日」に向けて、SPJからも既にお伝えした「顧みられない熱帯病学生コンテスト」が開催され、1月30日の当日にはその結果発表・表彰式も含めたウェビナーも開催されます。詳細は改めてご紹介します。
SPJは、引き続きNTDs制圧の一助となるよう広報を続けて参ります。
※1 顧みられない熱帯病
顧みられない熱帯病 (Neglected Tropical Diseases: NTDs)とは、WHO(世界保健機関)が定める21の疾患の総称のことで、熱帯途上国地域の149の国々に暮らす中低所得者層を中心に約10億人もの人々が苦しんでいると報告されている病気です。NTDsは貧困による劣悪な衛生環境などが主な原因となって蔓延し、これらの疾患にかかると、重度の身体障害が残る場合もあり、生涯にわたる身体的、精神的影響を及ぼし、経済成長の妨げにもなっています。そのため、適切な時期に適切な治療を受ければ治癒が可能なのにも関わらず、貧困のためにそれができず、病気のためにさらなる貧困に陥るという負のスパイラルが発生しています。
※2 Uniting to Combat NTDs
NTDs制圧を目指し、WHOのNTDsロードマップや持続可能な開発目標(SDGs)を支援するために資源を動員するグローバル団体
※3 Mass Drug Administration(集団投薬)
リンパ系フィラリアなどの蔓延を防ぐために、感染リスクのある全住民に治療薬を投与する戦略