TPOUgandaと実施したメンタルヘルス講座をご紹介します。

活動報告

SDGs・プロミス・ジャパン(SPJ)では、2019年11月27日から、2020年3月7日まで、ウガンダ北部ユンベのビディビディ難民居住区にて「ウガンダ北部における南スーダン難民への心理社会的支援強化事業」を実施しました。

こんにちは。現地駐在員の飯田です。
今回は、私たちが心理社会的支援ワークショップの他に現地(ウガンダ)で実施したメンタルヘルス講座についてご説明いたします。

始めに、私たちが現地で一緒に活動したパートナー団体(TPO Uganda)についてご紹介いたします。

TPO Ugandaは1994年に設立されたウガンダのNGOで、国内26のディストリクト(日本の県のようなもの)でメンタルヘルスや心理社会ケアを始め、HIV/AIDSの予防とケア、児童保護、元子ども兵士へのケア、災害対策、性暴力の抑止活動など、さまざまな分野で活動を行っております。
(団体の詳細な情報や各取り組み内容に関しては団体のホームページhttp://tpoug.org/をご参照ください)

今回、SPJの事業では、ビディビディ難民居住区で暮らす786名の難民の方を対象としたメンタルヘルスの基礎講座をTPO Uganda協力のもと実施しました。

TPO Ugandaから精神科臨床オフィサー(Psychiatric Clinical Officer)の資格をもつ職員Morren氏を講師として招聘しました。Morren氏はこれまでにもSPJ(MPJの時機も含め)が、3期の事業で毎回講師をして頂いております。今回は、1回につき50~70人の難民を対象に13回の講座を実施しました。

主な講座の内容は以下の通りです。
①ストレスや精神疾患の原因について
②ストレスや精神疾患に陥るメカニズムについて
③難民居住区内で起こりやすい精神疾患の種類とその症状について
④てんかんについて
⑤精神疾患に関する問題についての相談先、紹介先について
⑥リラクゼーション体操の紹介 1回の講座は約3~4時間程度で、難民居住区内の教会で実施しました。

会場の様子

難民の方の中には、学校で教育を受けたことのない方も参加しておりました。

そのため、ただ説明をするだけでは理解が難しい内容も多いため、積極的に参加者の方々に質問を投げかけたり、時にはデモンストレーションを行うことで、視覚的にわかりやすいように工夫をしました。 下の写真はストレスや精神疾患に陥るメカニズムを説明する際、参加者の方に「状況」「思考」「感情」「行動」についてどのように変化するかを説明した時の様子です。

精神トラブルのメカニズムを紹介する講師

精神的な問題が生じる際、「状況」によって私たち人間は「思考」をし、その「思考」をもとに「感情」が生まれます。その「感情」によって「行動」に変化が生じ、その結果また「思考」をし、「感情」→「行動」→「思考」のサイクルを繰り返します。

いつも架空の人物を例に、とある状況を例に具体的な説明を加えます。

例えば、「失業した」という状況を例に、もしAさんがそのことで「私は社会に必要とされていない」という思考を持ったとすると、「辛い、悲しい、孤独感」といったネガティブな感情が生じます。そして、その感情により「周囲に対して攻撃的になったり、関わりを断とうとする」という行動を起こします。すると周囲もAさんとの関係が希薄になり、あまり協力的ではなくなり、時には村八分のようになってしまうかもしれません。

ここで、Aさんはさらに「周囲は自分のことを理解してくれない」と考え、「怒りや孤立感」を感じ、「周囲に攻撃的な態度をとる」という行動に出る、そしてまた悪い思考が生まれ…とこの負のサイクルを繰り返し、どんどん追い詰められ、最終的に精神的な問題を抱えることになります。

同じ「失業した」という状況でBさんは「これはもしかしたら新しいことに挑戦するいい機会かもしれない」と思考したとします。すると、「挑戦心や、わくわく感」などの感情を生み、「周囲への積極的なかかわり、情報収集」という行動を起こします。その結果、周囲のサポートを得られ結果的に前向きな正のサイクルが生まれます。

このように、精神的な問題の根源は状況や感情そのものではなく、状況に対して自分がどう考えたかという「思考」の部分にあるのだと説明をしました。

このように、文章で表現すると難しい内容の話も多いですが、実際の例を用いて話し、さらには、「何が原因だと思うか?」「どのような症状があるか?」「どうすればよいと思うか?」など、参加者に積極的に質問をすることで、どの会場でもとても積極的な姿勢で参加されてる方が多かったのが印象的でした。

メモを取りながら講義を受ける参加者

その他に私が特に印象に残ったのは、この講座で「てんかん」を1つの大きなトピックとして扱っていることです。日本でもてんかんを持っている方はいますが、難民居住区ではかなりの頻度でてんかんの患者を見かけます。

てんかんの原因となる脳への損傷という部分で、マラリアの罹患率が高く脳性マラリアに罹る方が多いこと、交通事故が多いことなどの理由で、てんかんに罹る確率が日本より圧倒的に多いことが原因だと個人的に推測しています。

実際に、55人程度が参加したとある日の講座で「てんかん患者を実際に見たことがある人?」と尋ねると、実に7割以上の人が手を挙げました。そして、問題はてんかんに対する知識が不足していることです。

多くの難民のみなさんは、てんかん患者の唾液や血液に触れるとてんかんがうつると誤解していたり、舌を噛まないように発作時に金属スプーンや木の枝をくわえさせたり、時にはてんかん患者には悪い何かが乗り移っていると考え、おまじないを唱えたり…という様々な誤解や誤った対応、偏見がみられます。

そのため、TPO Ugandaでメンタルヘルス講座を行う前に打ち合わせを行った際に、てんかんというトピックは必ず入れたいという意見を講師よりいただきました。

実際に講座が終わった後に参加者に感想を尋ねると、

「これまでてんかんはHIVのように感染するものだと思っていたので驚いた」
「周りもみんなうつると言っている、今でも完全には信じられないぐらいの衝撃的な話だった」
「周りのみんながてんかん患者に触ってはいけないと誤解しているので、帰ったらさっそくみんなに正しい知識を伝えたい」といった感想が出てきました。

13回のうち、ランダムに数回実施した理解度テスト(講座の開始前と終了後に実施)では、75%以上の参加者のスコアが向上していました。

参加者の感想の中でも、
「私たちは南スーダンで様々なトラウマをかかえ、精神的なストレスを日々感じて過ごしてきたが、今日の講座を聞くだけでも、前向きな気持ちになれた」
「またこのメンタルヘルスの内容の講座を聞きたい」
「今日この講座を受けられていない人がたくさんいるので、自分が学んだことを伝えたい」
という感想や意見をたくさんいただきました。

南スーダン難民の皆さんの中には、目の前で大切な人を亡くしたり、自らの命の危険を感じる場面に遭遇した方もたくさんいらっしゃいます。

ビディビディ難民居住区内においても、食糧支援、医療的な支援、教育支援等、様々な支援が今も続けられていますが、目に見えない精神的な疾患や問題に対する支援は不足し、現場でのニーズの高さも感じました。

このような支援を行う上で、地元の方々の現状、考え方、文化的な背景を理解しておくことは非常に大切なことです。そのうえで、難民の方々が理解しやすく、かつ積極的に参加できるような講座を実現するために、TPO Ugandaのこれまでの実戦経験や現地で培った様々なノウハウは事業を進めるうえで必要不可欠なものでした。

メンタルヘルス講座は2月26日に最終回を迎え、計13回の講座を終了し、786名の難民の皆様に参加していただきました。

参加された方々が学んだことをコミュニティの中で伝えて下さり、精神的な問題で悩む1人でも多くの方の力になってくれればと願っています。

リラクゼーション体操の様子