【メッセージ】ジェフリー・サックス教授からのメッセージ ②

ミレニアム・プロミス・ジャパン特別顧問ジェフリー・サックス教授からメッセージが届きました!JS MasterHeadshot_low

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エボラ出血熱への対応策

ジェフリー・サックス  2014年8月11日


 ニューヨークから ― 少なからず西アフリカの4カ国(ギニア、リベリア、シエラレオネ、ナイジェリア)で猛威を振るうエボラ出血熱の更なる感染拡大を防止すべく、迅速な対応と世界における公衆衛生に対する基本的前提を考え直すことが求められている。私たちは、新興・再興感染症が国際ネットワークを通じて急速に広がる時代に生きている。それゆえに、その現実に見合った世界規模の感染予防体制が必要だ。幸いにも、その体制の実現は適切な処置をとれば手の届く場所にある。

 エボラ出血熱は、エイズ、SARS、H1N1型、H7N9型インフルエンザなどと共に、近年流行しているものの中で最も新興的なものである。ここに挙げた中でも、エイズは最も多くの犠牲者を出し、1981年以来3600万人に及ぶ人々の命を奪っている。

 無論、これよりも危険で突発的な感染流行が起こるとも考えられる。例えば第一次世界大戦中における1918年のスペインかぜは、(戦争そのものが奪った命の数よりも遥かに多い)5000万から1億の命を奪った。2003年のSARS大流行に対しては封じ込めが行われ、死者は1000人以下に抑えられたものの、これにより、中国経済をも含む東アジアにおける数カ国の経済は崩壊寸前にまで陥った。

 エボラ出血熱や他の流行病について必ず知っておきたいのは次の四点である。一点目は、殆どの新興感染症は動物原性感染症であることだ。つまりこれらの感染症は動物個体群に端を発し、人体に感染するものに突然変異することもあるということだ。エボラ出血熱はコウモリから伝染した可能性があり、HIV/エイズはチンパンジーから、またSARSは中国南部における動物市場にて取引されたジャコウネコに端を発した可能性が極めて高いと考えられている。さらにH1N1型やH7N9型のようなインフルエンザの菌株は野生動物および家畜動物の中における遺伝子組み換えから生じた。人類が(かつては遠く離れていた森林地域のような)新たな生態系に介入し、食品産業がより多くの遺伝子組み換えの条件を造り出し、さらには気候変動によって生物の生息地や種間の相互作用が混乱してしまえば、人類が新たな動物原性感染症に接触するのは避けられない。

 二点目は、いったん新たな感染症が現れると、空路、海路、巨大都市や動物製品の売買を通じて極めて急速に拡大する可能性があるということだ。これらの流行病は人間社会がグローバル化していることの証であり、その死の連鎖を通じて、広がりゆく人と物の行き来によってこの世界がどれほど脆弱になってしまったかを露わにする。

 三点目は、被害を最初に受け、最もひどい影響を受けるのは貧困層だということである。田舎地域の貧しい人々は感染力を持った動物に一番近いところに住んでいる。その地域の人々は狩りを行なって野生動物の食用肉を食べることが多いので、ウイルスに感染しやすくなっているのだ。貧しい人々は概して文字の読み書きが不自由で、どのようにして感染症 ―特に馴染みのない病― が広まるのかを総じて知らない。そのために自らへの感染および他人への伝染の可能性が高まってしまう。その上、栄養が乏しく基礎的な医療サービスを利用できないので、彼らの免疫システムは、栄養状態が大変良く、適切に処置を受けられる人であれば凌ぐことのできる感染症に対しても簡単に屈してしまうのである。また、流行病に対する適切な公衆衛生的対応(感染した人の隔離、接触者の特定、監視など)を確実に実施できる医療従事者がいたとしてもその数がごく少数であるという脱医療化現象のせいで、最初の大流行がより深刻なものとなってしまう。

 最後の点は、必要とされる医療器具、有効な薬品およびワクチンをも含む医療対応が、新興感染症よりも遅れをとるのが避けられないということだ。いずれにせよ、そのような道具は継続的に補給されなければならない。そのためには、最先端の生物工学、免疫学、そして最終的には何百万人分ものワクチンや広範囲の流行に備えた薬品等の大規模な産業的な対応が必要である。

 例えば、エイズ危機により、何百億ドルもの資金が研究と開発に費やされ、産業界は救命用抗レトロウイルス薬を国際的規模で生産することに多大なる努力をした。しかしながら、進展を果たすごとに病原菌の突然変異は避けられないので、治療法が有効でなくなるのである。完全な勝利など存在しない。存在するのは、人類と病原体との間のせめぎ合いのみである。

 果たして、エボラ出血熱や新興の致命的なインフルエンザや、病の転移を早めるHIVウイルスの突然変異種、あるいはマラリアや他の病原菌の新たな多剤耐性菌への進化に対して、世界は準備ができているのだろうか。
答えは「NO」である。

 公衆衛生への投資が2000年以後に顕著に増加して、エイズ、結核、マラリアとの闘いにおいて注目に値するような成功につながったにも関わらず、近年では必要量に対する公衆衛生にへの支出は国際的に著しく不足している。ドナー国は、新たに発生し今も続く困難を予期して十分に対応できなかったために、WHO(世界保健機関)に予算規模の大幅な縮小を強いることになった。一方で、エイズ・結核・マラリア対策世界基金のための資金も、これらの病に対する闘いに勝利するために必要な額に全く届いていない。

 ここに緊急に行なわなければならないことを明記しておこう。一点目は、アメリカ、欧州連合(EU)、湾岸諸国、東アジア諸国が、WHOの先導下で、当面の間、さらなる拡大に対して備える中で、おおよそ5000万から1億ドルという額の初期段階で現在のエボラ出血熱の流行に柔軟に立ち向かえる基金を設立すべきだということである。これにより目下の困難に対処できるほどの迅速な公衆衛生的対応が可能となるであろう。

 二点目は、グローバルファンドを低歳入国家のための国際保健基金とするために、ドナー国は国際基金の予算と権限の双方を迅速に拡大させる必要があるということである。その主たる目的は最貧国が基礎的な医療制度をスラム街や田舎の全コミュニティーに成立させるのを助けること、つまりユニバーサル・ヘルス・カバレージ(UHC)の構築であろう。最も緊急を要する事態はサハラ以南のアフリカと南アジアに存在し、これらの地域では衛生状態や貧困が最悪の状況下にあり、予防かつ制御可能な病が未だはびこり続けている。

 とりわけ、これらの地域では病気の症状の把握と監視を行ない、診断および適切な処置を実行できる医療従事者がコミュニティー内で新たに養成され配置されるべきである。年間たった50億ドルの投資で全てのアフリカのコミュニティーに十分に訓練を積んだ医療従事者が配置され、人命救助的な介入を行い、エボラ出血熱のような衛生に関する緊急事態に有効に対応できるようになるだろう。

 最後の点は、高歳入国家は国際的な疾病監視、WHOによる普及活動能力、そして20世紀を通して人類に一貫して大いなる利益をもたらしてきた人命救助につながる生体医学研究へ継続して十分な投資をしていかなければならないということである。国家予算が緊縮しているが、財政を理由に、私たちの生命そのものを危険にさらすのは無謀なことであろう。



www.jeffsach.org
www.earth.columbia.edu/mpv




この英文は学校法人山口学園 ECC国際外語専門学校様のご協力により、学生の方に翻訳していただきました。
[翻訳ボランティア] 
学校法人山口学園 ECC国際外語専門学校
国際ビジネス学科 総合英語コース<翻訳専攻> 1年
増田果穂様、山内勇樹様
ありがとうございました!