すでにご紹介しましたように、昨秋イギリスのシンクタンクODIが、ミレニアム・ビレッジ・プロジェクトに関する調査分析レポートを発表しました。その中で、ミレニアム・プロミス側がいくつかの点で、反論を述べています。
ODIレポートに対するミレニアム・プロミスからの回答
我々は、ODIチームがミレニアム・ビレッジ・プロジェクト(以下MVP)を慎重かつ入念に再検討したことに感謝する。ODIチームは、本報告書の調査および準備に、多大な時間を費やし協議を重ねた。我々は、ODIがMVPの「目覚ましい成果」を認識していることに感謝の意を表するとともに、ミレニアム開発目標達成(以下MDGs)には明らかにMVP型の介入が緊急に必要であるとするODIの見解に強く賛同する。また、ミレニアム・ビレッジ(以下MV)が、広範囲な拡大プロセスの一環として実施されるべきであり、また、ドナーは、MVP型プログラムと補完的投資を大規模に拡大するため、責任を持って資金提供すべきであるというODIの意見に賛同する。
マリやルワンダをはじめとして、MVPを現在受け入れている複数の国々は、MVの手法を国家レベルに拡大する国家政策を提唱している。これらの国家政策は、素晴らしくかつ大胆であり、国際社会に向けて発表されている。これらの政策は、ハイレベル政府の計画と監督の下で、コミュニティレベルの政府の重点活動に、MVP型介入を直接組み入れていると我々は当然ながら認識している。我々は、ODIの提言と十分一致した形で、MVPが政府外の独立したプロジェクトではなく、(まして、一部のNGOの手法にみられるように政府を回避しようとする方法としてではなく)(NGO団体や民間セクターとの連携は必要であるが)政府の国家的取り組みの一環となるべき戦略の一つと考えていることを強調しておく。
最近、マラウイ大統領は、「全ての村落にミレニアム・ビレッジを」と希望を述べた。ウガンダの多数の国会議員も同様の意見であった。ナイジェリアは、MVを多数の州に設置する取り組みを開始した。また、他のアフリカの数十以上の国々がMVPへの参加を申し出ている。各国政府は自国の財源を投入する用意はあるが、どの国もすべて、ドナーからの多大な支援を必要としている。
よって、MVPは、その数々の著しい成功を収めた結果、拡大への力強い一押を生み出した。アフリカ各国政府は、ドナーに対し、プロジェクトへの参加や既存の小規模な段階から拡大するために必要な支援を呼びかけている。 広範囲な国家政策及び戦略の枠組みの中でのMVの実施を望む声は後を絶たない。 重ねて強調するが、その制限要因となっているのが、これらのプロセスの実施に必要なドナーからの財源の提供である。よって、この意味において、ドナーは、MVPに参加しまたは同様なプロジェクトを実施または拡大する意思のある政府に対しては、支援すべきであるとするODIの提言は非常に重要である。
また我々は、数多くの支援の約束が果たされていない状況下で、MVP型プログラムが拡大および成功し続けるかどうかは、(多くの約束はされたが、いまだに達成されていないのだが)ドナーがそれぞれの現行の約束を果たすかどうかにかかっているという報告を強調したい。 国家や自治体が事業拡大のための追加支援を得られなければ、拡大への約束は空文のままだ。
我々には、ODIチームの結論とは若干異なる見解が二点ある。第一点は人材に関するものだ。本レポートは、折にふれて、MVPは、近い将来に国レベルへの拡大を不可能にするほどに、専門的訓練を受けた職員への依存度が高い、と指摘している。しかし、この見解は私たちの経験と分析に相反するものである。農業、保健、水文学、土木などの重要分野には、大抵、専門技術をもった労働者は存在しているのだが、彼らの技術が活かされる事業が実際に少ないため、その能力が十分に活用されずにいる。 例として、政府省庁には有能な農業普及職員が多数いるが、これら普及職員による投入支援が可能な手段(例えば、豊富な改良種子など)が地元コミュニティに備わっていない場合は、大抵の場合、こうした専門職員はすべきことがほとんどないことがわかった。同様に、多くの国では看護師が失業中または有効活用されていない。国及び地方自治体の予算では、これらの医療従事者の雇用は不可能であり、または、彼らの一時的かつ恒久的な他国への移動を思いとどまらせることはできないからである。
人材不足については、他にも有効な対策がいくつかある。第一に、高度な技術を必要とする労働のコストを節約する新たな妙案がいくつかある。例えば保健分野では、地域ヘルスワーカーが、訓練を受けた医師及び看護師の監督の下で、一年間の団体実地研修を受けるという新たなプログラムが施行されている。第二に、新しい情報技術により何千人もの技術労働者を対象にした大規模な遠距離指導が容易になっている。第三に、新情報技術の有効活用は、例えば遠隔医療や、現場から離れたところからインフラの管理運営に関する技術サポートを提供することを通じて、国境を超えて技術を活用することも可能にした。第四に、一部の新技術は、現地技術労働者のニーズに効率よく対応できる。(例えば、従来の高度な技術を必要とする顕微鏡検査に代わって、マラリア診断には迅速診断キットが使われている。)最後であるが第五に、MVプロジェクトの主要介入策の多くは、十分に標準化されハンドブック等の形で文書化することができ、共有の手順によって急速な拡大が可能である。
我々がODIと意見を若干異にする第二点目は、「適応したMV」に関するODIの提言である。ODIは、最低コストによる介入に重点を置いてMVのコスト節約を目指すことを提唱している。しかし、ドナーが長期わたって約束している支援の責任を果たしていない現段階においては、そのような手法は「不経済」であり、それどころか、重要な介入の抑制につながってしまうと我々は信じている。「適応したMV」は、貧困村落が極端な貧困から脱却するために必要な投資を与えることはないだろう。よって、これはMVプロジェクトの方針及びその中核的戦略に反するものである。単独な介入やいくつかの低コストの介入を拡大するだけでは、MDGsの達成に必須な疾病の克服、教育の改善、農業生産性の向上、環境管理、インフラ整備といった真の総合的課題を克服することはできない。
我々は、ドナーがこの見解に同意し、開発共同体の主張と一般市民の支援を十分に得て、長期にわたる支援の約束を果たすと考えている。そうした考えから、2008年9月25日にMDGs達成期限までの中間地点を機に開催された国連ハイレベルイベントにおいて、ゴードン・ブラウン英国首相が発表した四段階の課題から、我々は希望を見出し、励まされた。ブラウン氏は、MVの手法にかなり沿って形でのMDGs達成に向けた緊急な総合的優先事項を訴えた 。
ブラウン首相は、「第一に、保健分野では、我々は、100万人のヘルスワーカーを採用および研修し、300万人の母親と700万人の子供の命を救う。第二に、マラリアに関しては、2010年までに全住民への蚊帳の普及を確保し、人命の損失を防ぐワクチンの研究のため資金提供して、2015年までにマラリア感染による死亡をすべて根絶することに合意する。(第三に、)教育に関しては、2010年までに現在より2400万人多くの児童を就学させ、2015年までに普遍的教育への道のりに軌道を戻す。第四に、飢饉に関しては、「アフリカの角」地域における今日の飢餓を防ぎ、作物植付け時期に間に合うように30ヵ国に種子と肥料を届け、輸出によりアフリカのみならずアフリカ以外の地域の食糧も支えられるようアフリカに巨額の投資をすることに同意する。」と具体的に訴えた。
同イベントにおいて、ビル・ゲイツ氏は説得力のあるMDGsの分析を行い 、MDGsが引き出す大規模な成果に注目した。
ビル・ゲイツ氏は、「MDGsは、技術革新がどこに最大の利益をもたらすかを我々に示すことでで、新たな発見を見出す手引になるはすだ。これはMDGsのすばらしい特質であり、だからこそ、私は、我々が達成できることについて、楽観的な見通しをもっている。MDGsは民間セクター、慈善団体、政府、国連機関が、新たな方で連携することを可能にする。(中略)よって、私は失望のみに焦点をあて、非難をまき散そうとする人々とは意見を異にする 。非難や罪の意識では、人を動かすことはできない。人は成功により意欲が湧くものである。我々はもっと多くの人に数多くの成功と機会を届ける。」と述べた。
我々は、こうした世界のリーダーのビジョンと、MDGsに対する彼らのコミットメントそして、実際的かつ拡大可能な手法と革新的連携を通じて、MDGsが達成可能であると彼らが認識したことに対し、大変うれしく思う。
最後に、我々は、ODIレポートならびにMV拡大の必要性を訴えたODIの主要メッセージに感謝している。我々は、そうした拡大は実現可能だけでなく、また、近代化への転換は間近であると確信している。 MV受け入れ国は、緊急かつ明確な関心を示している。技術的にも実現可能であることは明確であり、それはMVにおいて既に証明されている。革新的な連携が、― 政府、企業、学界、慈善団体、非営利部門を結びつけながら― 急速に構築されている。今こそ、行動の時だ。
2008年10月8日
ミレニアム・ビレッジを代表して
ミレニアム・プロミス最高経営責任者 ジョン・W・マッカーサー
コロンビア大学地球研究所所長、国連ミレニアム開発目標に関する国連事務総長特別顧問、
ミレニアム・プロミス代表・創設者 ジェフリー・D・サックス教授