SPJ理事の更家悠介様(サラヤ株式会社代表取締役社長)によるCOVID-19感染拡大下におけるウガンダでのご活動(現地にて指先消毒剤製造中)のお話

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SDGs・プロミス・ジャパン(SPJ)では2020年6月11日に理事会(オンライン)を開催し、ご参加くださったSPJ理事の更家悠介様(サラヤ株式会社代表取締役社長)に、お話を伺いました。 以下、更家理事のお話の一部をお届けします。

 

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私どもは手洗いで創業した企業である。私の父が1952年に、当時赤痢がすごく流行っていたので、赤痢の予防のために手を洗って消毒する器具や、当時、液体石鹸は日本になかったのだが、初めて液体石鹸に殺菌剤を入れて手洗い器材を作り、ディスペンサーも作った。これが私どもの企業のスタートだ。その後、1980年代に速乾性アルコール消毒等も作らせていただいたので、これが今のコロナ対策の予防的手洗いのベースになっている。  

 

2012年からウガンダにて会社設立、14年から生産開始。徐々に赤字状態を抜け出し、コロナの感染拡大で需要は20倍に。

ウガンダでは、JICAが5S(整理・整頓・清掃・清潔・しつけ)のプロジェクトをウガンダの病院にしていたが、それに乗って、手洗い推進事業等もさせていただいた。ところが、なかなか習慣を変えるというのは時間がかかることで、最初の頃はずいぶん赤字を重ねながら、徐々にバランスが取れる企業になってきた。そして、この度のコロナで需要が 20倍になった。しかし、ボトルやポンプの限界があるので、とにかく皆頑張ってやっているが、20倍を生産するのは難しい。そうこうしているうちに希少価値が出てきて、サラヤの消毒剤を転売する人が出てきた。5倍くらいで売っている。それを見て、どさくさに紛れて何てあくどいことをする企業だということで、私どもの会社にたくさんクレームをいただいた。それを、そうではないということを説明しながらコロナ対応をやらせていただ いている。コロナの最中に、これは儲かるということで1か月の間に20社くらいアルコールを混ぜて売る会社ができた。こういう状態で今ウガンダは動いているが心配はしていない。  

実はウガンダでは、アルコールに酒税が60%くらいかかっていて、保健医療に供するの でこれを撤廃するように政府にこれまでずっとお願いをしていた。TICAD7のときもムセベニ大統領が来られたので、直接陳情して、分かったということだった。保健大臣も分かったというのだが、アフリカにありがちなことで、現場がなかなか動かない。しかし、この度のコロナで必要性が認められ、酒税が撤廃された。大蔵省は、60%の税額を還付しないといけないのだが、今お金がないといわれ、そこは折り合って合意し、今後税金がかからなくてアルコール手指消毒剤ができるようになった。これはたいへん良かった点である。

そういうことで、ウガンダでは苦労しながらやってきた。今ケニアでもサラヤケニアという会社を作って、ウガンダとケニアでやっているので、連携しながらマーケットがかなり広がってきている。やっと一息ついて、お役にも立ててよかったという状況だ。  

私どもは世界のいろいろな国でも展開しているので、こうしたコロナ騒ぎの中で需要が急に伸びるのだが、日本はヨーロッパやアメリカと比べて、感染者と入院患者が比較的少ない。アジアでは、韓国、台湾、が少ない。韓国はITの力をずいぶん借りているように思 うが、台湾は大臣のリーダーシップがよく言われる。日本はなぜかわからないが感染者が少ないというので、こういうところをやはりきちんと分析をするべきだ。日本の衛生というものは優れているが、これは伝統的に優れているのか、文化的に優れているのか、いろいろな理由があると思う。われわれとしてはこれを踏まえて、自信をもって日本の衛生を世界に普及するということをやらせていただきたいと思っている。  

 

来るポストコロナ時代の日本の課題。

コロナが起きるとアメリカをはじめヨーロッパも国と国の壁を高くして、国家主義というものがずいぶん前に出てきて、自国中心主義的な体制が広がってきたと思う。しかし、国家主義でやっている国の中でも、たとえばアメリカは 、感染者数、死亡者数ともに世界ナンバーワンである。今まで日本はグローバリズムに対し、トランプ大統領前のアメリカ的な、資本の自由化や、ヒトやモノの流通を自由にするといった、グローバリズムに対応して経営をやってきた。しかしこれからは、今までのグローバリズムを維持しながらも、国家至上主義とどう向き合って対応していくかというこ とが、今まさにわれわれに問われている。これがポストコロナの課題だ。  

日本政府は、持続化給付金や特別定額給付金などの、お金を配る議論が進んでいるが、 デジタルガバメントなど政府の改革・具体的にどう対応するかについては、未だ対応が遅 れているように思う。そして、これからも時間がかかるように思う。また日本は省庁の縦 割りがとても強いので、政策目的にあわせて組織を再編成するという議論が進まず、これ も対応が遅れている。ポストコロナの社会では、DX(デジタル・トランスフォーメーション)が急速に進むことが予想される中で、政府の変革の遅れは致命的になる可能性がある。  

私どもはどちらかというと予防を中心にして医療や公衆衛生の世界に入らせていただいている。予防というのは、病気の前にいろいろ算段をして病気になる確率を減らすことだ 。医療というのは病気になった人を治すことで、これは治療が目的だ。日本では予防と医 療の境がなかなか難しくて、もっといえば医師会が非常に強いので、いろいろな予防的行 為が医療につながるとされ、予防的ビジネスは非常に制限を受けてきた。このため、予防のイノベーションが起きにくく、ビジネスも投資がしにくい。こういう日本独自の体制と 環境で、予防というものをポストコロナでどう見直すかというのは、日本国内の問題でもあると思う。  

コロナの時代の中でわれわれが体験したこととして、某企業では社員のほとんどが在宅 勤務をしていた。そこの人事部長が2割くらいの社員で会社って動くのではないかとふともらしていた。これは冗談であって欲しい。働き方改革の中では、少なくとも社員が会社 に100%いる必要がないということが解ってきた。私どもの経験を紹介すると、各部門に よって働き方が違うので、出社や在宅、時差通勤などは、自由にしてよい、各部門が自分で考えて実行してくれと言った。100%在宅された方から、ハイブリッドされた方。工場等だとやはり出ていかないと仕事ができないので、逆に100%出社に近い対応をした方などに分かれた。

その後、いろいろな議論をして総括していくわけだが、たとえばお子さんをおもちの方は、どちらかというと在宅の方がお好みである。通常勤務の時間の中よりも用 事があれば出て、その分どのようにやるかとか、やはり就業規則の見直しなどをやっていかないといけない。デジタルが導入されることによってテレワークや在宅勤務がどんどん 進んでくるだろう。営業も、お客様と会ってはいけない、お客様も会わないということで 、在宅からいろいろなお客様にできるだけメールや、Zoomを活用して、営業をさせていただいた。今は少し戻ってきつつあるのだが、非常事態宣言が解除されるまで、このような形でずっと対応して、お客様にもそれを受け入れていただいていた。これはこれで生産性は上がったように思う。わざわざ1時間半くらいかけて東京の本社に来て、また1時間半かけて帰ると3時間のロスがあるし、感染リスクも多い。ただし、在宅からでもできる仕事の可能性は広がるが、それをどうガバナンスをどうするかなど、今からシステムを見直していかなければいけない。  

 

ITとバイオ技術の発展に対応して、ますます必要となる理念。

ビジネス界だけではなくて、社会がどんどん仕組みを変えていく。ITリテラシーができていないところは教育しながらやる。もっというと、ITのシステムを使いやすく変えて、社会が進んでいかなければいけないと思っている。これはDXである。  

またITと並んでバイオの展開がある。昨日の日経新聞では、タカラバイオが、PCR検査 を2時間で5000件検査ができる技術を作ったということで、早速システムをアメリカへ売 っているという記事が出ていた。世界ではPCR、特にコロナのPCRの競争をしているが、 病気の予防になるとやはりバイオテクノロジーがすごく幅を利かせてくる。大きなトレン ドでいうと、バイオテクノロジーとITの技術が、ポストコロナの世界を変えていく。今われわれはこのようなポジションにあって、コロナがそれを加速しているということなので 、これを意識して、技術についていき、社会に応用することが必要だ。  

だし、技術はあくまで技術であって、独り歩きすると問題である。たとえばバイオテクノロジーがどんどん進むと、人工授精どころか、受精卵を操作していい子を作ろうとす るとか、これはもう今どこかで誰かがやっているような気もする。これは行きすぎであり 、人間が神の領域まで踏み込んでいることになってしまう。動物では、犬に筋肉増強遺伝子を強化して、3倍筋肉のあるビーグル犬を作ったり、サルの遺伝子をまぜてハイブリッドのサルを作ったり、こういうことを中国ではどんどんやっている。だから、バイオテク ノロジーやITは、世界を変えるが、技術を活用するということにおいては、理念が要る。理念がないと技術がどんどん独り歩きするので、技術を使う理念を考える必要がある。

 

SDGsの理念「誰ひとり取り残さない」を達成するためには、イノベーションで感染予防策の促進を。

グローバリズムの理念も、今はアメリカ的な資本主義のリターン・オン・インベストメ ントの理念が幅を利かせ、それを利用して、金持ちが金を生む世界が実現し、貧富の差が 広がっている。今は、コロナ不況で、アメリカの連邦準備理事会(FRB)や日銀もどんどん株を買い支えているので、株の値段はどんどん上がっている。しかし儲けているのは金 持ちの人たちで、貧乏な人との格差がひろがっている。貧乏で医療費もろくに払えない方々にコロナのしわ寄せがいっているので、アメリカでは世界一の金持ちも多いが、世界一の感染者も多い。こういう、世界のグローバリズムを見直して、経済発展の新しい理念が必要である。  

われわれはSDGsを通じて、持続可能な地球と世界をつくる実践活動をしなければならない。国家主義ばかり皆がやっていたら、地球温暖化は誰が解決するのか疑問が残る。持続可能な社会づくりは待ったなしである。最近洪水が多いが、大雨が起こると金持ちは高台に逃げていくけれども、貧しい人々は洪水に呑み込まれてしまう。プラスチック海洋汚染や生物多様性の減少、コロナについても同様である。SDGsの理念で最も大事なことは、誰ひとり取り残さない (no one will left behind!) ということだ。しかし、これを一度に行うのは無理で、お金も時間もかかる。正しいモデルを示しながら、ひとつひとつ実践していかないといけない。しかし、時間は待ってくれないけれど。  

JICAは、UHC(ユニバーサル・ヘルス・カバレッジ)というコンセプトを実行しようとしている。これは「誰ひとりとり残さない」ための、素晴らしいコンセプトだ。これに加え今日は、私どもの、スタンダードプリコーションというコンセプトをご紹介したい。スタンダードプリコーションとは、コロナも含めた感染症の標準予防策だ。標準予防策では 、まず手を洗うとか、マスクを着用するとか、隔離政策をするとか、まず一般的な感染予防の標準予防策を実践する。その上に個別の感染経路に対する、予防策が乗っかる。このような標準予防策が、貧しい国においても実践されないと、感染予防はできない。コロナが貧しい国で起こって放置されれば、いずれ世界に飛び火する。誰一人取り残さないというコンセプトは、感染症においても重要だし、健康においても重要だ。

この予防に、どんどんイノベーションを入れていかねばならない。予防することは、治療することよりもコストが10分の1、20分の1安い。これをできるようにするには、やはり ITの力を借りなければならない。ITの力は、まずはヘルスアセスメントだ。体重や身長などから出発するとしても、この間から議論しているのはコロナだ。コロナに関しては、ス パイロメーターという、息のボリュームやスピードが分かるメーターがあり、これを使って毎日身体を計測すると日々の肺の活動状況が分かる。高齢者施設にこれを入れ、毎日計測することで、早期に肺の異変が感知できる。また、指先酸素計なども、すぐに酸素濃度が分かるので、その酸素濃度が落ちてくると、ひょっとして肺が悪いのではないかという診断になる。こういう検診がデジタルでできると、それをテレコミュニケーションで飛ば して、どこかに集めることができる。これを転記すると分析ができる。分析したデータにより、あなたここが悪いですよという診断がすぐにできる。日本では、なかなかこれが実践できないが、途上国でやってもいいというところがあれば、企業とタイアップして、 実験をやっていくことができる。  

たとえばアビガンは、日本ではもう治験できない。なぜならばコロナが収束しているので、患者がいない。どこかの国でコロナがこれから多いところと、JICAや日本政府がタイアップして、たとえばどこそこの病院に2,000人や3,000人の予算を出すから、アビガンの 治験をお願いする。アカデミックな情報や方法はZoomでちゃんと指導する。そのようなことができると、誰ひとり取り残さないシステムの中に技術が入ってくる。こういうビジ ョンを、まず健康診断・アセスメントで始めてはどうか?そして、アセスメントの仕方は YouTubeで教育プログラムを作って流したり、実際に相手とZoomで話したりしながら 、100%ではないけれども、何十%かの指導はできるはずだ。これがイノベーションだ。  

 

理念を実践するためにはパートナーシップの形成を。

理念は、活動の中に展開されて始めて価値を持つ。そこでSDGsの理念で、新しいグローバリズム、資本主義を創り、 実践しよう。そして例えばUHCを官民挙げて実現することによって、日本の立ち位置が非常によくなると思う。  

私は中国とも仕事をしているが、日本人や、日本人の造った商品は、非常に清潔で信頼 がおけるだという評判がある。日本の作った食品を、中国人がどんどん買っている。この信頼を大切にしたい。ただし中国もイノベーションがすごいし、アメリカもすごい。そこで自国中心主義を排して、こうした彼らの技術をどんどん入れたらいいと思う。入れながら、それをさらに使いこなす。もしくは、正しく正直に使いこなす。それから、正しく、恵まれない人に使う。アフリカにおいても、非常に日本人に対する信頼が強いので、うまくパートナーを組みながら、日本人の良さを出していくとよい。JICAの場合は日本の税金を使っているので、日本の企業や器具を使わなければならないということが足かせとなっ て、非常に価格の高いものを海外に導入せざるを得ない。これは見直すべきだ。日本企業は、入れたものは責任をもって5年くらいはちゃんと面倒を見る。日本人がよいものを選択して提供することは信用がある。ただし、新しい仕組みには、お金もいれば、見直しもいるので、パートナーシップの観点で、どこと組むかを研究して、徐々に実践すればどうかと思う。  

これからポストコロナの世界は、スピードが速くどんどん環境が変わっていくので、そのスピードに対応しながら、世界の変化についていく必要がある。JICAにもSPJにも頑張っていただき、われわれも頑張りたいと思う。

(2020年6月11日・SPJ理事会・更家悠介理事) 

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