ウガンダ ブログ記事(2月度)

SDGs・プロミス・ジャパン(SPJ)では2019年11月27日から2020年3月7日まで、ウガンダ北部ユンベ県のビディビディ難民居住区にて「ウガンダ北部における南スーダン難民への心理社会的支援強化事業」を実施しました。

 

今回の記事は、事業地のユンベ(ウガンダ北部)のビディビディ難民居住区における南スーダン人の日常生活などについて報告します。

 

まず、南スーダン人の難民居住区とはいえ、難民居住区内に一定の秩序があることに驚かされました。ビディビディ難民居住区は、5つのゾーンに分かれていますが、ゾーンことに難民居住区に住んでいる南スーダン人によって選挙で選ばれた代表者が一人ずつ配置されており、代表者が中心になって、各ゾーン内にある村々の住民の揉め事を仲裁したり、ウガンダの政府機関や難民居住区内で活動する国連難民高等弁務官事務所などの国連専門機関や国際NGOなどと調整を行ったりしており、難民居住区が南スーダン人の手によって統治されていました。私たちが活動しましたゾーン3の代表者は協力的な方で、心理社会的ワークショップの活動を行う上でとても助かりました。

 

さて、ウガンダの北部と南部では気候が違います。南部は雨が多く、雨期と乾期のサイクルも比較的はっきりとしているようで、北部は乾燥していて雨も少ないです。首都のカンパラ(南部)から事業地のユンベ(北部)まで車で約10時間かけて移動するとよく分かりますが、カンパラ近郊の緑と自然の多さは北上するにつれて少なくなっていき、北部では南部に見られない植生、例えばパームツリーがあちこちに自生しています。パームツリーは乾燥に強いのでしょう。南部では、移動中の車窓からマツの木が生えているのを見かけますが、北部ではほとんど見かけないマツの木が、標高の高いところで自生することが多いことを考慮すると、カンパラからユンベに北上するにつれいて、標高が下がる、裏を返せば気温が上がっていくようです。実際に活動中、ユンベの高温と乾燥で喉がやられてしまうことが度々ありました。

 

そして、北部の高温や乾燥に対応するかのように、北部のウガンダ・コミュニティや南スーダン・ビディビディ難民居住区では風通しのよい茅葺き屋根と土壁で作られた家が建てられます。実際に、私も難民居住区にある茅葺き屋根の家の中に入って確かめてみました。すると、茅葺きと土やレンガでできた質素な建物ではあるものの、日中の暑さとは裏腹に建物の中は涼しく過ごしやすいです。ただ、建物は小さく、家の中に間仕切りのようなものもなかったので、家族や親族が生活しているとは言え、家の中で個々人のプライバシーを確保することは難しいと思いました。また、南スーダン人の住居に関して言うと、北部のアジュマニで活動されている京都の国際NGOテラ・ルネッサンスさんの活動を視察させて頂きました。テラ・ルネッサンスさんでは、職業訓練の一環として建物の建築材料であるレンガづくりを職人が南スーダン人に教えていますが、この家の建て方、例えば降水量の多い地域や乾燥地域、突風などの風の強い地域によっては、レンガの組み方を工夫して、建物の強度を高めている(雨風に強いレンガの組み方など)とのことでした。これは地域に根付いている生活の知恵そのものであり、職業訓練を通して熟練の職人が若い世代に伝えていくものの一つです。一見すると、ビディビディ難民居住区にある茅葺き屋根の家屋はどれも同じような作りに見えますが、ゾーンや村々ごとにその土地や気候に合った工夫がされているのかも知れません。個人的には、南スーダン人の衣食住に関わる興味の尽きない話題です。

 

ちなみに、事業地のユンベやアルアなどのウガンダ北部には、南スーダン人だけではなく、隣国のコンゴ民主共和国からコンゴ人が多く流入しています。ウガンダ人の話によると、ウガンダ北部で家を建てる場合は、家の建設コストを抑えるために、ウガンダ人がしばしばコンゴ人を建設作業員として雇うそうです。ウガンダで家の建設作業に従事するコンゴ人は、夜が明けるか否かの早朝、コンゴ民主共和国から国境を越えてウガンダにやって来ます。そして終日ウガンダで建設作業をして、その日のうちにウガンダからコンゴ民主共和国に帰ります。典型的な出稼ぎ労働者です。

 

ビディビディ難民居住区にある茅葺き屋根の住居の様子

 

ディビディ難民居住区にある茅葺き屋根の住居の様子。 家の周りで子供たちが遊んでいる

 

ビディビディ難民居住区には、国連機関や国際NGOが活動しています。一方で、多くの南スーダン難民は仕事をしていません。そのため、自らの収入で食糧を買うことができない南

 

スーダン人への食糧援助は喫緊の課題ですが、ビディビディ難民居住区では、世界食糧計画が南スーダン人に定期的に食糧援助を実施しています。今回、私たちが実施してきた心理社会的ワークショップでは、教員とコミュニティリーダーを裨益者としました。それが、世界食糧計画による食糧援助と相まって思わぬ影響を出てしまいました。既に説明しました通り、ビディビディ難民居住区はゾーンが5つに分かれており、そのゾーン内に多くの村々があります。例えば、ゾーン1のビレッジ1は、月曜日から水曜日までの3日間のうちに、世界食糧計画が指定する食糧配布場所まで住民が食糧を取りに行くといった感じで食糧配布計画が複雑に組まれていますが、私たちの活動の裨益者としたコミュニティリーダーは、村の代表者であり、3日間のうち最初の月曜日に自分が食糧を受け取ったからと言って、その場を離れることはできないことを、のちに知りました。つまり、ゾーン1のビレッジ1のコミュニティリーダーであれば、食糧配布日となっている3日間全て、朝から晩まで村人が食糧を受け取りに来るのを全て確認(検収)する必要があり、この3日間が、私たちの心理社会的ワークショップや事業モニタリングの日程とダブってしまった場合は、コミュニティリーダーと会うことはできないということです。実際に、心理社会的ワークショップが終わった後に事業モニタリングを実施しましたが、各村を巡回するとコミュニティリーダーがいないことがままありました。これは、次回のビディビディ難民居住区でのプロジェクトで考慮すべき点です。

 

また、他団体の活動で印象に残ったこととして、どこの国の国際NGOか知りませんが(少なくとも、日本のNGOではなかった)、南スーダン難民の啓発活動の一環として、ビディビディ難民居住区(ゾーン3)で南スーダンの子供たちが自分たちの意見を書いたバナーを手にもってパレードする様子をドローンで撮影していました。南スーダンの子供たちが「We are same blood」「Give us better」「My tribe is South Sudanese」などのバナーを手にもってパレードしていたのには、心を打たれました。ちなみに、ビディビディ難民居住区での活動は、ウガンダ政府によって厳しく管理されており、ウガンダ政府から活動許可が下りないと活動することはできません。しかしながら、難民居住区で写真や動画を撮影することは意外と問題ないようで、ウガンダ人から「写真はOKだ」と軽いノリで言われましたので、活動期間中にたくさん写真を撮りました。

 

南スーダン人の子供たちによる啓発パレードの様子(国際NGOの活動)

 

南スーダン人への食糧配布の様子(世界食糧計画による)。

 

最後に、ビディビディ難民居住区にある小学校に通う子供たちの様子について書きます。今回のプロジェクトでは、教員及びコミュニティリーダー向け心理社会的ワークショップを学校で実施したため、学校の教育現場を視察する機会に恵まれました。小学校には普通の小学生に加えて、15歳とか20歳ぐらいの南スーダン人の小学生が普通の小学生と一緒に教室で授業を受けています。南スーダンでの紛争や迫害によって、教育機会を奪われてしまった人たちです。そういった人々の中には、例えば自分の息子(普通の小学生)と一緒に自分も同じ小学校に通って授業を受けている人もいます。紛争によって教育機会が奪われてしまうことは、その国の損失そのものです。

 

途上国の国際協力の全てが凝縮されているようなビディビディ難民居住区で多くの気づきと学びを得ました。

 

ビディビディ難民居住区にある小学校の授業の様子

難民居住区の様子を紹介します。

SDGs・プロミス・ジャパン(SPJ)では2019年11月27日から2020年3月7日まで、ウガンダ北部ユンベ県のビディビディ難民居住区にて「ウガンダ北部における南スーダン難民への心理社会的支援強化事業」を実施しました。

今回の記事は、事業地のユンベ(ウガンダ北部)のビディビディ難民居住区における南スーダン人の日常生活などについて報告します。

まず、南スーダン人の難民居住区とはいえ、難民居住区内に一定の秩序があることに驚かされました。ビディビディ難民居住区は、5つのゾーンに分かれていますが、ゾーンことに難民居住区に住んでいる南スーダン人によって選挙で選ばれた代表者が一人ずつ配置されており、代表者が中心になって、各ゾーン内にある村々の住民の揉め事を仲裁したり、ウガンダの政府機関や難民居住区内で活動する国連難民高等弁務官事務所などの国連専門機関や国際NGOなどと調整を行ったりしており、難民居住区が南スーダン人の手によって統治されていました。私たちが活動しましたゾーン3の代表者は協力的な方で、心理社会的ワークショップの活動を行う上でとても助かりました。

さて、ウガンダの北部と南部では気候が違います。南部は雨が多く、雨期と乾期のサイクルも比較的はっきりとしているようで、北部は乾燥していて雨も少ないです。首都のカンパラ(南部)から事業地のユンベ(北部)まで車で約10時間かけて移動するとよく分かりますが、カンパラ近郊の緑と自然の多さは北上するにつれて少なくなっていき、北部では南部に見られない植生、例えばパームツリーがあちこちに自生しています。パームツリーは乾燥に強いのでしょう。南部では、移動中の車窓からマツの木が生えているのを見かけますが、北部ではほとんど見かけないマツの木が、標高の高いところで自生することが多いことを考慮すると、カンパラからユンベに北上するについて、標高が下がる、裏を返せば気温が上がっていくようです。実際に活動中、ユンベの高温と乾燥で喉がやられてしまうことが度々ありました。

そして、北部の高温や乾燥に対応するかのように、北部のウガンダコミュニティや南スーダンビディビディ難民居住区では風通しのよい茅葺き屋根と土壁で作られた家が建てられます。実際に、私も難民居住区にある茅葺き屋根の家の中に入って確かめてみました。すると、茅葺きと土やレンガでできた質素な建物ではあるものの、日中の暑さとは裏腹に建物の中は涼しく過ごしやすいです。ただ、建物は小さく、家の中に間仕切りのようなものもなかったので、家族や親族が生活しているとは言え、家の中で個々人のプライバシーを確保することは難しいと思いました。また、南スーダン人の住居に関して言うと、北部のアジュマニで活動されている京都の国際NGOテラ・ルネッサンスさんの活動を視察させて頂きました。テラ・ルネッサンスさんでは、職業訓練の一環として建物の建築材料であるレンガづくりを職人が南スーダン人に教えていますが、この家の建て方、例えば降水量の多い地域や乾燥地域、突風などの風の強い地域によって、レンガの組み方を工夫して、建物の強度を高めている(雨風に強いレンガの組み方など)とのことでした。これは地域に根付いている生活の知恵そのものであり、職業訓練を通して熟練の職人が若い世代に伝えていくものの一つです。一見すると、ビディビディ難民居住区にある茅葺き屋根の家屋はどれも同じような作りに見えますが、ゾーンや村々ごとにその土地や気候に合った工夫がされているかも知れません。個人的には、南スーダン人の衣食住に関わる興味の尽きない話題です。

ちなみに、事業地のユンベやアルアなどのウガンダ北部には、南スーダン人だけではなく、隣国のコンゴ民主共和国からコンゴ人が多く流入しています。ウガンダ人の話によると、ウガンダ北部で家を建てる場合は、家の建設コストを抑えるために、ウガンダ人がしばしばコンゴ人を建設作業員として雇うそうです。ウガンダで家の建設作業に従事するコンゴ人は、夜が明けるか否かの早朝、コンゴ民主共和国から国境を越えてウガンダにやって来ます。そして終日ウガンダで建設作業をして、その日のうちにウガンダからコンゴ民主共和国に帰ります。典型的な出稼ぎ労働者です。


ビディビディ難民居住区にある茅葺き屋根の住居の様子。
写真②ビディビディ難民居住区にある茅葺き屋根の住居の様子。
家の周りで子供たちが遊んでいる。

ビディビディ難民居住区には、国連機関や国際NGOが活動しています。一方で、多くの南スーダン難民は仕事をしていません。そのため、自らの収入で食糧を買うことができない南スーダン人への食糧援助は喫緊の課題ですが、ビディビディ難民居住区では、世界食糧計画が南スーダン人に定期的に食糧援助を実施しています。今回、私たちが実施してきた心理社会的ワークショップでは、教員とコミュニティリーダーを裨益者としました。それが、世界食糧計画による食糧援助と相まって思わぬ影響を出てしまいました。既に説明しました通り、ビディビディ難民居住区はゾーンが5つに分かれており、そのゾーン内に多くの村々があります。例えば、ゾーン1のビレッジ1は、月曜日から水曜日までの3日間のうちに、世界食糧計画が指定する食糧配布場所まで住民が食糧を取りに行くといった感じで食糧配布計画が複雑に組まれていますが、私たちの活動の裨益者としたコミュニティリーダーは、村の代表者であり、3日間のうち最初の月曜日に自分が食糧を受け取ったからと言って、その場を離れることはできないことを、のちに知りました。つまり、ゾーン1のビレッジ1のコミュニティリーダーであれば、食糧配布日となっている3日間全て、朝から晩まで村人が食糧を受け取りに来るのを全て確認(検収)する必要があり、この3日間が、私たちの心理社会的ワークショップや事業モニタリングの日程とダブってしまった場合は、コミュニティリーダーと会うことはできないということです。実際に、心理社会的ワークショップが終わった後に事業モニタリングを実施しましたが、各村を巡回するとコミュニティリーダーがいないことがままありました。これは、次回のビディビディ難民居住区でのプロジェクトで考慮すべき点です。

また、他団体の活動で印象に残ったこととして、どこの国の国際NGOか知りませんが(少なくとも、日本のNGOではなかった)、南スーダン難民の啓発活動の一環として、ビディビディ難民居住区(ゾーン3)で南スーダンの子供たちが自分たちの意見を書いたバナーを手にもってパレードする様子をドローンで撮影していました。南スーダンの子供たちが「We are same blood」「Give us better」「My tribe is South Sudanese」などのバナーを手にもってパレードしていたのには、心を打たれました。ちなみに、ビディビディ難民居住区での活動は、ウガンダ政府によって厳しく管理されており、ウガンダ政府から活動許可が下りないと活動することはできません。しかしながら、難民居住区で写真や動画を撮影することは意外と問題ないようで、ウガンダ人から「写真はOKだ」と軽いノリで言われましたので、活動期間中にたくさん写真を撮りました。

南スーダン人の子供たちによる啓発パレードの様子(国際NGOの活動)
南スーダン人への食糧配布の様子(世界食糧計画による)。

最後に、ビディビディ難民居住区にある小学校に通う子供たちの様子について書きます。今回のプロジェクトでは、教員及びコミュニティリーダー向け心理社会的ワークショップを学校で実施したため、学校の教育現場を視察する機会に恵まれました。小学校には普通の小学生に加えて、15歳とか20歳ぐらいの南スーダン人の小学生が普通の小学生と一緒に教室で授業を受けています。南スーダンでの紛争や迫害によって、教育機会を奪われてしまった人たちです。そういった人々の中には、例えば自分の息子(普通の小学生)と一緒に自分も同じ小学校に通って授業を受けている人もいます。紛争によって教育機会が奪われてしまうことは、その国の損失そのものです。

途上国の国際協力の全てが凝縮されているようなビディビディ難民居住区で多くの気づきと学びを得ました。

ビディビディ難民居住区にある小学校の授業の様子。

TPOUgandaと実施したメンタルヘルス講座をご紹介します。

SDGs・プロミス・ジャパン(SPJ)では、2019年11月27日から、2020年3月7日まで、ウガンダ北部ユンベのビディビディ難民居住区にて「ウガンダ北部における南スーダン難民への心理社会的支援強化事業」を実施しました。

こんにちは。現地駐在員の飯田です。

今回は、私たちが心理社会的支援ワークショップの他に現地(ウガンダ)で実施した

メンタルヘルス講座についてご説明いたします。

始めに、私たちが現地で一緒に活動したパートナー団体(TPO Uganda)についてご紹介いたします。

TPO Ugandaは1994年に設立されたウガンダのNGOで、国内26のディストリクト(日本の県のようなもの)でメンタルヘルスや心理社会ケアを始め、HIV/AIDSの予防とケア、児童保護、元子ども兵士へのケア、災害対策、性暴力の抑止活動など、さまざまな分野で活動を行っております。

(団体の詳細な情報や各取り組み内容に関しては団体のホームページhttp://tpoug.org/をご参照ください)

今回、SPJの事業では、ビディビディ難民居住区で暮らす786名の難民の方を対象としたメンタルヘルスの基礎講座をTPO Uganda協力のもと実施しました。

TPO Ugandaから精神科臨床オフィサー(Psychiatric Clinical Officer)の資格をもつ職員Morren氏を講師として招聘しました。Morren氏はこれまでにもSPJ(MPJの時機も含め)が、3期の事業で毎回講師をして頂いております。今回は、1回につき50~70人の難民を対象に13回の講座を実施しました。

主な講座の内容は以下の通りです。

①ストレスや精神疾患の原因について

②ストレスや精神疾患に陥るメカニズムについて

③難民居住区内で起こりやすい精神疾患の種類とその症状について

④てんかんについて

⑤精神疾患に関する問題についての相談先、紹介先について

⑥リラクゼーション体操の紹介 1回の講座は約3~4時間程度で、難民居住区内の教会で実施しました。

会場の様子

難民の方の中には、学校で教育を受けたことのない方も参加しておりました。

そのため、ただ説明をするだけでは理解が難しい内容も多いため、積極的に参加者の方々に質問を投げかけたり、時にはデモンストレーションを行うことで、視覚的にわかりやすいように工夫をしました。 下の写真はストレスや精神疾患に陥るメカニズムを説明する際、参加者の方に「状況」「思考」「感情」「行動」についてどのように変化するかを説明した時の様子です。

精神トラブルのメカニズムを紹介する講師

精神的な問題が生じる際、「状況」によって私たち人間は「思考」をし、その「思考」をもとに「感情」が生まれます。その「感情」によって「行動」に変化が生じ、その結果また「思考」をし、「感情」→「行動」→「思考」のサイクルを繰り返します。

いつも架空の人物を例に、とある状況を例に具体的な説明を加えます。

例えば、「失業した」という状況を例に、もしAさんがそのことで「私は社会に必要とされていない」という思考を持ったとすると、「辛い、悲しい、孤独感」といったネガティブな感情が生じます。そして、その感情により「周囲に対して攻撃的になったり、関わりを断とうとする」という行動を起こします。すると周囲もAさんとの関係が希薄になり、あまり協力的ではなくなり、時には村八分のようになってしまうかもしれません。

ここで、Aさんはさらに「周囲は自分のことを理解してくれない」と考え、「怒りや孤立感」を感じ、「周囲に攻撃的な態度をとる」という行動に出る、そしてまた悪い思考が生まれ…とこの負のサイクルを繰り返し、どんどん追い詰められ、最終的に精神的な問題を抱えることになります。

同じ「失業した」という状況でBさんは「これはもしかしたら新しいことに挑戦するいい機会かもしれない」と思考したとします。すると、「挑戦心や、わくわく感」などの感情を生み、「周囲への積極的なかかわり、情報収集」という行動を起こします。その結果、周囲のサポートを得られ結果的に前向きな正のサイクルが生まれます。

このように、精神的な問題の根源は状況や感情そのものではなく、状況に対して自分がどう考えたかという「思考」の部分にあるのだと説明をしました。

このように、文章で表現すると難しい内容の話も多いですが、実際の例を用いて話し、さらには、「何が原因だと思うか?」「どのような症状があるか?」「どうすればよいと思うか?」など、参加者に積極的に質問をすることで、どの会場でもとても積極的な姿勢で参加されてる方が多かったのが印象的でした。

メモを取りながら講義を受ける参加者

その他に私が特に印象に残ったのは、この講座で「てんかん」を1つの大きなトピックとして扱っていることです。

日本でもてんかんを持っている方はいますが、難民居住区ではかなりの頻度でてんかんの患者を見かけます。

てんかんの原因となる脳への損傷という部分で、マラリアの罹患率が高く脳性マラリアに罹る方が多いこと、交通事故が多いことなどの理由で、てんかんに罹る確率が日本より圧倒的に多いことが原因だと個人的に推測しています。

実際に、55人程度が参加したとある日の講座で「てんかん患者を実際に見たことがある人?」と尋ねると、実に7割以上の人が手を挙げました。

そして、問題はてんかんに対する知識が不足していることです。

多くの難民のみなさんは、てんかん患者の唾液や血液に触れるとてんかんがうつると誤解していたり、舌を噛まないように発作時に金属スプーンや木の枝をくわえさせたり、時にはてんかん患者には悪い何かが乗り移っていると考え、おまじないを唱えたり…という様々な誤解や誤った対応、偏見がみられます。

そのため、TPO Ugandaでメンタルヘルス講座を行う前に打ち合わせを行った際に、てんかんというトピックは必ず入れたいという意見を講師よりいただきました。

実際に講座が終わった後に参加者に感想を尋ねると、

「これまでてんかんはHIVのように感染するものだと思っていたので驚いた」

「周りもみんなうつると言っている、今でも完全には信じられないぐらいの衝撃的な話だった」

「周りのみんながてんかん患者に触ってはいけないと誤解しているので、帰ったらさっそくみんなに正しい知識を伝えたい」

といった感想が出てきました。

13回のうち、ランダムに数回実施した理解度テスト(講座の開始前と終了後に実施)では、75%以上の参加者のスコアが向上していました。

参加者の感想の中でも、

「私たちは南スーダンで様々なトラウマをかかえ、精神的なストレスを日々感じて過ごしてきたが、今日の講座を聞くだけでも、前向きな気持ちになれた」

「またこのメンタルヘルスの内容の講座を聞きたい」

「今日この講座を受けられていない人がたくさんいるので、自分が学んだことを伝えたい」

という感想や意見をたくさんいただきました。

南スーダン難民の皆さんの中には、目の前で大切な人を亡くしたり、自らの命の危険を感じる場面に遭遇した方もたくさんいらっしゃいます。

ビディビディ難民居住区内においても、食糧支援、医療的な支援、教育支援等、様々な支援が今も続けられていますが、目に見えない精神的な疾患や問題に対する支援は不足し、現場でのニーズの高さも感じました。

このような支援を行う上で、地元の方々の現状、考え方、文化的な背景を理解しておくことは非常に大切なことです。そのうえで、難民の方々が理解しやすく、かつ積極的に参加できるような講座を実現するために、TPO Ugandaのこれまでの実戦経験や現地で培った様々なノウハウは事業を進めるうえで必要不可欠なものでした。

メンタルヘルス講座は2月26日に最終回を迎え、計13回の講座を終了し、786名の難民の皆様に参加していただきました。

参加された方々が学んだことをコミュニティの中で伝えて下さり、精神的な問題で悩む1人でも多くの方の力になってくれればと願っています。

リラクゼーション体操の様子

南スーダン難民への心理社会的ワークショップを始めました。

SDGs・プロミス・ジャパン(SPJ)では2019年11月27日から2020年3月7日まで、ウガンダ北部ユンベ県のビディビディ難民居住区にてジャパン・プラットフォーム(JPF)の助成の下、「ウガンダ北部における南スーダン難民への心理社会的支援強化事業」を実施しています。

こんにちは。現地駐在員の濱田と飯田です。

私たちは、昨年の12月にウガンダに着任し、首都カンパラにて事業開始の準備を行い、今年の1月から本格的に事業地のユンベ県で教員及びコミュニティリーダー向け心理社会的ワークショップ及び現地のローカルNGOであるTPO Ugandaと提携した難民コミュニティ向けメンタルヘルスセミナーを開始しました。

今回の記事は、教員及びコミュニティリーダー向け心理社会的ワークショップを中心に報告します。

ウガンダ北部のユンベ県にあるビディビディ難民居住区には、現在でも80万人以上もの南スーダン難民が生活しており、祖国の紛争から逃れてきた難民が現地で過酷な生活を強いられています。南スーダン難民の間では、紛争によるフラストレーションや失業、心的外傷後ストレス障害(PTSD)、アルコールの乱用などが深刻化しています。また、紛争で心理的な傷を負った児童が数多くいます。SPJでは過去の事業においてそんな児童の心のトラウマの問題を解決するためのワークショップを行ってきました。今回の事業ではSPJは児童の周囲を支える大人たちの心理社会的支援への理解と知識を深めるために、「ウガンダ北部における南スーダン難民への心理社会的支援強化事業」を開始しました。

1月から本格的に開始された教員向け心理社会的ワークショップには、教員20名が参加し合計で7回のワークショップが行われました。

教員向け心理社会的ワークショップでは、描画から粘土細工制作、針金の人生制作、そして過去の辛い体験及び未来への希望という2つのテーマで歌詞作成を行い、心理社会的ケアの段階を踏んでワークショップを実施しました。参加者(教員)が作った描画や粘土細工には、南スーダンの紛争で家族が殺されたり、家が破壊されたりといった辛い記憶が色濃く反映されていました。今でこそ、ウガンダで平穏な日々を送っている彼らですが、南スーダンでの辛い体験は、私たちの想像を絶するレベルのものです。参加者の描画や粘土細工、針金の人生制作などの作品を見るにつれ、大変な生活をされてきたのだと痛感しました。

音楽セッションでは、過去の辛い体験及び未来への希望という2つのテーマで歌詞を作成しました。さすがは学校の先生だけあって、合唱が大変上手で、楽しく歌っている様子は印象的でした。また音楽セッションには、日本からお越しいただいた心理社会的ケアの専門家である桑山紀彦医師にも参加して頂き、心理社会的ワークショップのファシリテーターとして参加している現地スタッフに指導して頂きました。最終回のワークショップには、国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)やTPO Ugandaなどのオブザーバーを招いて、これまでのワークショップの成果発表会を開催しました。成果発表会では、参加者が描画から粘土細工、針金の人生、そして過去の辛い体験及び未来への希望という2つのテーマで歌詞を順次発表しました。また成果発表会では、ワークショップに参加された教員から「自分の学校でも心理社会的ワークショップの手法を取り入れて、子供たちの心のケアを行いたい。しかし、そのためには学校(校長先生)や教育関係者の心理社会的ワークショップへの理解が不可欠なので、教員だけでなく、校長先生や教育関係者も集めて同様のワークショップを開催してはどうか」など、ワークショップ参加者と活発な議論ができました。

成果発表会が終わり、ワークショップに参加された先生方が自分の作品を持って帰りましたが、特に先生の間では針金の人生が好評のようでした。子供たちへのワークショップとして、針金の人生は取り組みやすいようです。

描画セッションの様子。 描いた描画についてグループで討論する参加者
粘土セッションの様子。 南スーダンの紛争での辛い経験を作品にする参加者
針金セッションの様子。 制作した針金の人生について、参加者が皆の前でそれぞれ発表した
音楽セッションの様子。 グループに分かれた参加者が協力して、
南スーダンでの体験に基づいた歌詞を制作した
UNHCR(中央)とTPO Uganda(左)のオブザーバーから参加者に
ワークショップの修了証書が手渡された

今回は教員だけではなく、各難民コミュニティの取りまとめ役となっているコミュニティリーダーへも心理社会的ワークショップを行っています。各コミュニティに所属する児童が抱える心理的問題にコミュニティの代表者である彼らが気づけるようにし、適切な対処が出来るようにするというのが目的となります。

コミュニティリーダー向け心理社会的ワークショップも、描画から粘土細工、ジオラマ制作、過去の辛い体験及び未来への希望という2つのテーマで歌詞作成と、徐々に段階を踏みながら、ワークショップを開催しています(合計で12回、ワークショップを開催予定)。参加されているコミュニティリーダーによると、コミュニティ内でもPTSDやトラウマなどの精神的なトラブルを抱えた難民が生活していて、彼らへの対応が課題になっているとのことです。実際にUNHCRからビディビディ難民居住区内で自殺者が最近増えているとの報告が出ており、自殺と難民の精神的な問題の関係性が疑われています。

また、コミュニティリーダーに対しても、桑山医師に心理社会的ケアの重要性や意義について講義して頂きました。講義後には、参加者のコミュニティリーダーの皆さんと桑山医師との間で、活発な意見交換の場があり、コミュニティリーダーの心理社会的ケアへの関心の高さが伺えました。コミュニティリーダーの中には、南スーダンの紛争で自分の住んでいた村が戦闘機で爆撃されて村人200人が死亡し、生き乗った村人3人のうちの1人が自分であると語ってくれた方がいました。また、自分一人、ウガンダに逃げてきたものの、兄弟姉妹は南スーダンに残ってしまい、紛争で家族が射殺されてしまった方もいました。こういった心の奥底にあるネガティブな感情も全て作品に投影されており、粘土細工や歌詞制作はリアリティを帯びたものになりました。

うれしいことに、コミュニティリーダーの中には「ぜひ、自分の村でも心理社会的ワークショップで学んだ手法を用いて、村人のトラウマやPTSDに向き合ってみたい」と仰ってくれた方もいました。まずは手始めに、自分の家族の心のケアにチャレンジするそうです。

なお、コミュニティリーダー向け心理社会的ワークショップの参加者は30名に上ることから、現在、2つのグループに分けて実施しています。2月中旬に、コミュニティリーダー向けの成果発表会を実施予定です。

ジオラマセッションの様子。
グループに分かれて参加者が「住みたい街」をテーマにジオラマを制作した
音楽セッションの様子。 グループに分かれた参加者が協力して、
南スーダンでの体験に基づいた歌詞を作った
音楽セッションの様子。 成果発表会に向けて、歌のリハーサルを行った
ワークショップ参加者との1枚。SPJ理事長鈴木もワークショップ終盤時期に視察を行った