『第2回朝日SDGsフォーラム~日本への期待』を開催しました。

11月11日(月)、ジェフリー・サックス教授(コロンビア大学University Professor 持続可能な開発センター長)を講師に招き、『第2回朝日SDGsフォーラム~日本への期待』(共催:SDGs・プロミス・ジャパン(SPJ) / 朝日新聞社、協賛:三井物産)を開催しました。

会場の様子

サックス教授は、開発経済学がご専門で、国連事務総長特別顧問として持続可能な開発目標(SDGs)の前進であるミレニアム開発目標(MDGs)の策定、さらに、SDGsの策定に携わり、現在は持続可能な開発ソリューションネットワークディレクター(SDSN)を務めています。また、SPJの前身であるミレニアム・プロミス・ジャパン(MPJ)の設立にも深く関られ、現在は、SPJ特別顧問もされています。

SDGs策定に携わったサックス教授による講義

フォーラムには定員をはるかに上回る方々にご応募いただき、会場は満席の熱気に包まれました。「日本への期待」と題したサックス教授のパワーあふれる講演では、日本のSDGs達成における世界的な順位、さらなる挑戦が必要な分野、特に脱炭素化社会へ向けての挑戦、日本企業によるイノベーションによる貢献例(長期残効型防虫剤処理蚊帳によるマラリア死亡者数の減少)や期待(新技術によるクリーンエナジーへの転換)等について話されました。さらに、SDGsへの貢献のための日本とアジア諸国との連携やアジアとヨーロッパの間での協力の重要性について訴えました。SDGs達成に向けて日本が果たすべき役割について各自が考える有意義な時間になりました。

SDGs達成に向けた日本への期待について語るサックス教授

後半のパネルディスカッション「SDGsを行動におとしこむ」では、モデレーターである北郷美由紀朝日新聞記者の進行で、各パネリストによる経験事例の紹介の他、SDGs達成を目指して変えていくという個人の行動の大切さも示され、大いに盛り上がりました。サックス教授は、前半の講義で取り上げた気候危機について再び言及し、気温の上昇による感染症への影響、特に感染症を媒介する熱帯地域の蚊等の棲息分布の変化により、貧困層の病気といわれる顧みられない熱帯病(NTDs)をはじめとした感染症のリスク地域が拡大することへの懸念を示し、その対策について説明しました。パネリストとして登壇した福田加奈子氏(住友化学株式会社理事、CSR推進部長)は、社会貢献に関する企業理念、さらに、SDGsに貢献する事業と組織改革の具体例を挙げて、企業による取り組みを紹介しました。蟹江憲史氏(慶応義塾大学大学院政策・メディア研究科教授)からは、近年のSDGsへの関心の高まり、企業や地方自治体による積極的な取り組み、SDGs実施指針の改定に向けたアクションとしてステークホルダーによる円卓会議とパブリックコメントが求められていることについて説明がありました。2人の話を受け、サックス教授は、SDGsに関して企業や市民社会の声が届く仕組みができてきていること、共通の目標に向け、共通のコミットメントがなされ、皆が力を合わせて地球規模の課題を解決していこうとしている日本の現状をうれしく思うと話されました。

パネルディスカッションモデレーターの北郷 朝日新聞記者
左から、サックス教授、蟹江 慶応大学教授、福田 住友化学理事

鈴木りえこSPJ理事長の挨拶では、来場者に感謝の意を表すとともに、SPJとサックス教授との関係、団体の概要や難民支援等の活動について説明した後、最近は、ビル&メリンダ・ゲイツ財団と連携して、顧みられない熱帯病(NTDs)の撲滅を目指したキャンペーンを行っていることを紹介しました。また、本日のサックス教授による講義とパネルディスカッションでの企業や市民社会による活動について拝聴し、SDGs達成に向け活動する団体の代表としてとても勇気づけられた旨述べました。

閉会挨拶をするSPJ鈴木理事長

2時間を超えるプログラムでしたが、熱い講義とディスカッションであっという間に終了しました。参加者が、「誰一人取り残さない」というSDGsという目標に対する取り組みを、各自で改めて考えるとても良い機会となりました。


ウガンダ南スーダン難民心理社会的支援が終了しました!

SDGs・プロミス・ジャパン(SPJ)ではジャパン・プラットフォーム(JPF)の助成金を受け、6/11~9/25の間ウガンダ北部ビディビディ難民居住区において南スーダン難民への心理社会的支援を行いました。

ウガンダ北部の支援現場では様々な苦労がありましたが、皆様の応援のおかげで紛争のトラウマを抱える難民の方々に何とか支援を届けることが出来ました。

本事業では、まず柱となる活動として小学生向けのワークショップを行いました。ビディビディ居住区内のAlaba小学校とMengo小学校から各32名ずつの生徒を選出して、全10回のワークショップを実施したのです。ワークショップでは様々な表現方法を通して子ども達の記憶を形に表現していきます。はじめは絵画(2次元)、次に粘土や針金(3次元)、最後には音楽(4次元)と回を重ねる毎に複雑な表現方法を用いることで、子ども達はそれぞれの感情や記憶と向き合います。初回の絵画セッションでは「失ったもの/こと」をテーマとして絵を書いてもらったので、どの子どもも大切な肉親を失った悲しみを絵に表現していました。また「忘れられないあの日」というテーマでは、銃を向けられた光景、親が目の前で殺される様子、など、私たちが想像もつかない出来事を体験してきた子どもの心の内を垣間見ることとなりました。

絵画セッションの一コマ。「忘れられないあの日」をテーマにそれぞれの思いを絵にします。
描いた作品についてそれぞれ皆の前で発表します。
作品の一部
粘土セッションで作成された作品。棺桶の色が非常に印象的です。
ちなみに「好きなもの/こと」をテーマに描いてもらうと
日本の子どもたちと変わらないような絵が見られます。
粘土セッションで作成された作品。棺桶の色が非常に印象的です。

針金セッションでは自分の過去を振り返りつつ、未来に向けての希望を示します。

針金の最後の部分は明るい将来に向かって、数センチほど上向きに残しています。

針金をもって発表する男の子。小学生には見えませんが、現地では18歳でも小学校に通う子どもたちも少なくありません。

​ワークショップの後半は、過去の記憶から未来へとテーマが移ります。ジオラマセッションでは将来に住みたい町をグループで作成しました。多くの作品が平和になった南スーダンの未来を表現しており、彼らにとって南スーダンは、悲しい記憶の場所であると同時に楽しい思い出の残る故郷であり、いずれは戻ることができる未来を望む場所であることが強く感じられました。また、前半のセッションまではずっと暗い表情をしていた子どもが、初めて子どもらしい笑顔を見せ、ジェット機つきの自分の家を自慢している姿を見て、私たちも明るい気持ちをもつことができました。

ジオラマセッションでの作品。子ども達の将来への夢が目一杯詰め込まれています。

今回の事業のクライマックスは、終盤の音楽セッションで、子ども達はグループに分かれて「過去」「現在」「未来」の歌詞を作りました。それをメロディーに乗せて1番「過去」、2番「現在」、3番「未来」として歌います。この音楽セッションには日本人専門家である桑山紀彦医師が加わり、子ども達の歌詞づくりをファシリテートし、演奏の場面ではギターの伴奏も行いました。1番の「過去」の歌詞では、暗い記憶が歌われ、2番の「現在」では難民居住区内での安定した生活、3番の「未来」では美しい南スーダンの故郷や将来の夢が語られ、子ども達の繰り返し歌う大きな歌声に、見学に来ていた親や教師たちも引き込まれていきました。この音楽セッションの時期には、SPJ理事長・鈴木が活動地を訪問し、子ども達と一緒に歌詞を作ったり演奏を行ったりしました。また、在ウガンダ日本大使館の亀田大使にもプロジェクトをご訪問いただき、子ども達に大きなエールを送ってくださいました。

音楽セッションの様子。笑顔で歌ってくれました。
SPJ理事長・鈴木が子どもの歌詞作りに参加している様子
音楽セッションに加わる亀田大使(中央)と日本人専門家桑山医師(右)

また、今回の活動では子ども達の親や学校の教師を対象とした、心理社会的ケアに関するワークショップも実施しました。子ども達にとって多くの時間を過ごす学校や家庭生活において、周囲の大人達がいかに子ども達の様子に気づいて適切な対処ができるか、ということも子ども達の心理状況に影響を与える大きな要素となります。そのため、保護者や学校の教師に対するワークショップの内容は、精神的に不安定な子どもにはどのようなケアが必要か、という基礎知識の提供が主となりました。保護者や教師達からは多くの質問が寄せられ、約5時間にも及ぶ長時間のワークショップにも関わらず、最後まで熱心にメモを取る教師達の姿が印象的でした。

教員向けワークショップの様子。実は教師たちも今まで表に出せなかった様々な辛い想いを抱えていたことがわかりました。

【終わりに】

子ども達の心理状態には戦争によるトラウマの他にも、避難後の新しい生活に基づく様々な不安要素が含まれており、そう簡単に解決するものではありません。しかし、少なくとも当初は言葉が少なく凍った表情をしていた子ども達が、ワークショップ後半になると笑顔を見せてスタッフと作業をするようになっていたことは私たちにとって確かな手ごたえでした。また、親からは「子どもが家で過去の話をするようになった」「学校での出来事はあまり話さないのに、ワークショップでの出来事はよく話している」など、家庭内での前向きな変化を報告する声が複数聞かれました。

教師対象のセミナーやワークショップでは、「このような支援は今までなかった」「もっと長いセッションでの研修を行って欲しい」「コミュニティリーダーを対象とした活動を行って欲しい」など様々な要望が挙げられ、改めて心理社会的ケアに関する支援ニーズの高さを実感する事となりました。

最後に、自分たちの父親や母親が目の前で殺された過去を変えることはできません。でも、これからどう生きるかを決めることは出来るはずです。

ワークショップに参加した子ども達には、トラウマに押しつぶされず前向きな人生を歩んでもらえる事を心から願っています。

今回の事業(6月15日~9月25日)では、子ども64名、保護者61名、教師202名に対して活動を行うことができました。また、昨年の事業対象校の子ども達計47名を対象とした特別ワークショップも1日だけ実施することが出来ました。おかげさまで昨年度事業を行った子ども達の元気な姿を再度見ることが出来、嬉しく思いまた勇気づけられました。このような活動を実施できたのも、皆さまの温かいご支援のお陰です。改めてこの場をお借りして心より感謝申し上げます。今回の支援の様子は下記URLにてより詳しく映像化されています。ぜひご覧くださいませ。

教師方との一枚。皆様の熱意が本当に印象的でした。
子ども達に「どのセッションが一番楽しかったか」と聞くと声を揃えて「Singing!」と答えました。最後には子供らしい笑顔をたくさん見る事ができました。

このプロジェクトは一旦終了しますが、これからもSPJはウガンダ北部でトラウマを抱えた南スーダン難民の方々に支援を届けたいと考えております。今後とも応援のほどよろしくお願いいたします!


「顧みられない熱帯病(NTDs)の根絶を目指す議員連盟」の第2回目の会議が2019年10月29日に開催されました。

元厚生労働大臣の塩崎恭久衆議院議員(自民党)と秋野公造参議院議員(公明党)が呼びかけ人となり、今年5月に設立された「顧みられない熱帯病(NTDs)の根絶を目指す議員連盟」の第2回目会議が開催されました。議員関係者、政府系機関、大学、企業、市民社会等から約100名が参加し、前回に引き続いて盛会となりました。

会場の様子

同会議では、事務局長である秋野公造参議院議員が司会進行役を務め、会長の塩崎恭久衆議院議員の挨拶の後、鷲見学外務省国際保健政策室長からTICAD7についての報告がありました。報告では、NTDs関連のイベントがいくつか開催されたこと、また、首脳宣言である「横浜宣言2019」の中の「行動計画」において、NTDsに関する行動主体及び周知目標が示され、「TICAD7における日本の取り組み」の中の我が国支援の方向性においても、NTDsが記載されたこと等について説明がなされました。続いて、一盛和世長崎大学客員教授が、NTDsの概要、制圧に向けたWHOによるロードマップの状況、オンコセルカ症を例としたNTDs対策の現状について説明されました。

NTDsの対策等を説明する長崎大学一盛和世客員教授

次に、佐原康之厚生労働省大臣官房総括審議官(国際担当)からは、GHIT(グローバルヘルス技術振興基金)を通じた住血吸虫症及びマイセトーマといったNTDsの治療薬開発支援、WHOアフリカ地域事務局のNTDs制圧に向けた拡大特別プロジェクトであるESPENへの支援とその必要性についての報告がありました。その後、参加された議員のなかから、自見はなこ参議院議員、国光あやの衆議院議員、古屋範子衆議院議員、逢沢一郎衆議院議員が、NTDs治療薬の開発の現状、ESPENへの支援等に関する活発な質疑やコメントをいただきました。

自見はなこ 参議院議員
国光あやの 衆議院議員
古屋範子 衆議院議員
逢沢一郎 衆議院議員

最後に事務局長の秋野公造参議院議員より「顧みられない熱帯病に係る対策の推進に関する決議」案の説明、そして議員連盟による決議がなされました。決議案で示された実施要請内容は、

1) アフリカにおいてNTD蔓延による健康被害が甚大であることを認識し、我が国としてNTDに対する支援を積極的に行っていくことを再確認すること、

2) GHITを通じた、NTD対策に必要な医薬品等の研究開発に引き続き積極的な支援を行っていくこと、

3) アフリカのNTD対策へ向け、医薬品の研究や開発のみではなく、医薬品の流通を促進する保健システムの強化に対しても積極的な支援を行っていくこと、

4)令和元年度補正予算が編成される場合には、TICAD7及び日本企業のアフリカ進出のために一刻の猶予も許さないことを踏まえ、ESPENに対して必要額の予算を確保し、その後も継続的な支援を行うこと、

の4つでした。

会長 塩崎恭久衆議院議員
事務局長 秋野公造参議院議員

持続可能な開発目標(SDGs)では、ゴール3.3 にNTDsの流行を終わらせ、「顧みられない熱帯病に対する治療介入を必要としている人々の数(SDGs 3.3.5)」を減らすことが明記されています。SDGsの達成のための支援活動の1つとしてNTDsのアドボカシー活動を行っているSDGs・プロミス・ジャパン(SPJ)では、今回の会議によって、NTDsの問題と支援状況についての理解が促進され、議員連盟による決議により我が国による新たなNTDs対策への支援の道筋ができたことをしっかりと確認することができ、非常に心強く思っています。

*:ESPEN(Expanded Special Project for Elimination of Neglected Tropical Diseases)は、WHOアフリカ地域事務所(AFRO)による2016年から5年間のプロジェクト。5つのNTDs(オンコセルカ症、フィラリア症、住血吸虫症、土壌伝播寄生虫症、トラコーマ)に対する医療サービスのアクセスを改善することで、制圧と排除を加速することを目的に、AFRO加盟国のNTDsプログラムに技術的支援及び資金調達の支援を提供するもの。


【マラウイバオバブ事業】プロジェクトの事業成果調査を実施しました

 2年9カ月に渡って実施されてきた「バオバブ製品の製造販売を通じた農民グループの自立支援プロジェクト」もいよいよ終わりに近づきました。プロジェクト終了に伴い、今月はプロジェクトの対象となっていた農民グループに対し、事業成果調査を実施しました。

 この調査では、プロジェクトの直接的な裨益者合計1,373人の内、無作為抽出した約300人に対して、主に以下の3つについて調査しました。

①プロジェクトを通して何を学んだのか?さらにその修得したノウハウを活用して、組合の活動を促進することができたのか?

②組合活動における組合員の収入はどのぐらい向上したのか?

③組合活動を通して得た収入を活用して、どのように生活が改善されたのか?

 マラウイでは、世界銀行が定める貧困ラインである、1日1.90米ドル以下で生活する人の割合は50.7%にのぼり、国民の80%以上が農業により生計を立てています。その農業も1年に約4カ月間ある雨季の時期にのみ行うことができ、それ以外は仕事や収入がなくなる農家も多くいます。

 今回のプロジェクトを通し、製造業ビジネスに必要なノウハウとして、会計帳簿のつけ方や、衛生管理・在庫管理の方法、商品マーケティングの仕方、新商品開発の方法など、様々なトレーニングから新しい知識や技術を身につけることができた農民グループのメンバーの中には、組合活動だけでなく、組合活動で得た収益を元手に小規模な個人事業(販売用の米や野菜の栽培、販売用家畜の飼育、パンや揚げドーナツの製造販売など)に投資して、その収益を増やしている人も多くいました。

 事業を開始したこの約2年半で、バオバブ製品の販売市場は大きく拡大し、支援グループにおけるバオバブ製品の売り上げは約2.5倍増となりました。その結果、生活が改善されたと回答した人が90%を超え、実際にどの様に生活が変わったのかを嬉しそうに話す組合員の姿に、私たちも思わず目頭が熱くなり、自分たちがやってきたことがきちんと成果となって表れていることを実感でき、本当に嬉しく思いました。

ここで、実際に組合員の声を紹介したいと思います。

「これまでは、半年に一回、5人の子供の学費を支払う際には、親族たちからお金を借りなければ準備できなかったけれど、今では誰からも借りることなく子供たちの学費を払える様になったわ。(50代・女性)」

「今まで、組合のある工場まで来るのに片道1時間半を歩いて来ていたけれど、自転車を買えたことで、工場へ通うのが本当に楽になったよ。(40代・男性)」

「これまでは御座に布を敷いて寝ていたけど、初めてマットレスを買って、その気持ち良さに驚いたの。いつもなら日が明けると自然と目が覚めていたのに、あまりの気持ち良さに初めて寝過ごしたわ。身体も楽だし、本当に快適に寝れるって幸せね。(30代・女性)」

他にも、食卓に肉や魚が出る回数が増えた、新しい携帯電話やラジオを買った、家の屋根を藁葺からトタン屋根に変えたなど、皆さん着実に自分たちの生活の質を向上させていました。

今回の事業成果調査ではマラウイの北から南まで多くの農民グループを訪問しましたが、グループに到着すると、その多くが私たちをアカペラの歌とダンスで歓迎してくれたり、帰りには自分たちのグループで作った商品をお土産として持たせてくれたりと、“Warm Heart of Africa”と呼ばれるマラウイ人の温かさや陽気さを感じる機会が多くありました。彼らが当プロジェクトを受け入れ、感謝の気持ちを持ってくれていたことが、私たちSPJとしても本当に嬉しく、改めて開発支援の重要性や意義を感じました。

このプロジェクトは農民グループの自立を目的としており、今後は彼らの自助努力でグループ活動が運営されることが求められます。プロジェクトが終了しても、彼ら自身の力で、より一層グループが発展していくことを期待する一方で、こんなにも温かくて陽気な人たちともう時間を共にすることができないと思うと、少し寂しい気持ちにもなりました。これからも彼らの活躍に期待をしたいと思います。

組合に対して最後の挨拶を行う駐在員・青木(右)
アンケート調査用紙を記入する組合員たち

マラウイサイクロン被災支援事業を振返って

SPJではジャパン・プラットフォーム(JPF)の助成の下、マラウイの大洪水被災者支援として、2019年5月17日から7月22日にかけて「マラウイ共和国ゾンバ県における洪水被災者への緊急物資配布事業」(第1期)を実施し、8月9日から11月8日にかけて「マラウイ共和国ゾンバ県における洪水被災者への食糧・リカバリー物資配布事業」(第2期)を実施しました。

 2019年3月4日に発生しましたサイクロン・イダイによってゾンバ県では家屋が倒壊したり、作物が流失したりするなどの大きな被害が出ました。そこで、SPJでは約5カ月間(第1期+2期)、ゾンバ県でマラウイサイクロン被災支援事業を実施しました。ゾンバ県に現地駐在員が赴き、実際に半倒壊した家屋を確認しましたところ、被災者宅はトタン屋根やレンガ造り、木造作りの簡素な家が多く、サイクロンで屋根が吹き飛んでしまったり、壁が崩れたりしていました。また、サイクロンでメイズなどの作物が流出してしまいました。さらに、場所によっては元々土地が痩せており、作物が育ちにくい所も散見されました。

サイクロンで屋根が崩れてしまった被災者宅

サイクロン被災者の衣食住に関わる基本的な生活を維持するために、現地で食糧支援などの緊急援助の必要性を強く感じましたが、毎年サイクロンがやって来ることが分かっている状況の中で、どのようにして住民が主体的にサイクロンの災害に対応していくのかも課題であると実感しました。そのような状況で、第二期目からはメイズや米、豆などの約1カ月分の食糧をNkapita の被災1,060世帯に配布したことに加えて、屋根の補修材としてターポリンとブランケットをMwambo の被災550世帯に配布できたことは良かったです(1期目の事業では、裨益者に食糧物資のみを配布)。また、ターポリンの配布前には裨益者550世帯を対象にしたワークショップも開催し、ターポリンの活用方法の検討や今後サイクロンが発生しました時の避難経路などを確認することができました。日本国内のNPO法人の活動でも課題となっていますが、地域コミュニティへの一方的な援助はむしろ弊害になることも多く(住民の主体性が育たない)、そこに住む住民が地域に対して責任を持ち、地域の問題や課題を住民の手で解決していく姿勢を養うことが大切です。ワークショップでは、裨益者と一緒にサイクロン災害時の防災マップを作製し、サイクロンで洪水が発生する場所を確認したり、洪水や暴風雨にも負けない頑丈な建物に避難するためにはどの経路を歩いて行けばよいのかを確認したりするなど、サイクロン被災時に住民が主体的に動ける一助となるようなワークショップを心掛けました。

Mwamboでのワークショップの様子(防災マップ作成)

 国際NGOの現地駐在員の魅力の一つは、現地の人たちと一緒に仕事したり活動したりする中で、現地の人たちの価値観や考え方、生活などに直接触れることができる点です。事業モニタリング中(2期目)にこんなことがありました。

 ゾンバ県のMbukwiteのMatwika村の裨益者が、村長から食糧物資の半分20kg(メイズ12.5kg、米5kg、豆2.5kg)を許可なく没収されてしまい、村長が村にいる他のサイクロン被災者に食糧物資を配布するという問題が発生しました。そのため、裨益者からVCPC Chairman(地域コミュニティの取り纏め役)に連絡がありましたので、Mbukwiteの群長及びVCPC Chairman及びVCPCメンバー、Matwika村の村長と裨益者を招集し、コミュニティ会議を開催しました。この会議の席上で村長は自らの非を全面的に認めて、10月18日(金)に村長自らがメイズ12.5kg及び米5kg、豆2.5kgを購入し、裨益者に賠償しました。また村長から裨益者への食糧物資の引渡しは、私と現地スタッフ、GVH(群) Mbukwiteの群長及びVCPC Chairman、VCPCメンバー立会いの下で実施されました。

村の係争案件がどのように処理されているのか。このようなコミュニティ本位の活動に直接的に関わることができるのは国際NGOの現地駐在員の仕事の醍醐味だと考えています。

村長から賠償の食糧物資を受け取った裨益者と立会人の一人(現地スタッフ)
食糧物資の引渡しをもって村長と裨益者との和解が成立した。写真左が立会人の一人である
VCPCメンバー。中央が村長。VCPCメンバーと握手しているのが裨益者

今回のマラウイサイクロン被災支援事業では、事業モニタリングを通して多くの裨益者からヒアリングしました。さらに事業モニタリングでは、次の事業に繋がる現地ニーズもヒアリング調査しました。またゾンバ県で事業を実施する機会がありましたら、事業モニタリングで集めました住民の声(ニーズ)もしっかりと事業に反映できればと思います。

ターポリンとブランケット配布時に裨益者とスタッフの集合写真

最後になりますが、約5か月間にわたり、ご協力頂きました関係者の皆様並びに、ご応援頂きました皆様へ感謝を述べたいと思います。

本当にありがとうございました!!